免疫機能や感染症対策が気になる方に向けた、天然の免疫サポート成分です。 酵母エキス末は、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)から抽出された成分を粉末化したもので、主にベータグルカン(β-グルカン)を豊富に含みます。特にβ-1,3/1,6-グルカンの形態が免疫調節機能において研究されています。 2024年のメタアナリシスでは、酵母ベータグルカンがプラセボと比較して、上気道感染症の発症率を有意に減少させ(OR = 0.345、p < 0.001)、感染期間を短縮することが報告されました。 ベータグルカンは、消化されずに腸管に到達し、腸管免疫系のDectin-1受容体を介して免疫細胞を活性化することで、感染症への抵抗力向上、疲労軽減、腸内環境の改善に関与します。
- 主な働き:風邪予防・免疫細胞活性化・疲労軽減・腸内環境改善
- 摂るタイミング:朝食時、1日100〜900mg
- 相性:ビタミンC・ビタミンD・亜鉛・プロバイオティクスと併用で相乗効果
- 注意:酵母アレルギー、自己免疫疾患、免疫抑制療法中は医師に相談
- 食品例:サプリメント専用(食品からの十分な摂取は困難、パン酵母・ビール酵母に含まれる)
酵母エキス末とは
酵母エキス末は、パン酵母(Saccharomyces cerevisiae)などの酵母細胞から抽出された成分を粉末化したもので、主にベータグルカン(β-グルカン)を豊富に含む天然の免疫サポート成分です。ベータグルカンは、酵母細胞壁の主要構造成分であり、特にβ-1,3/1,6-グルカンの形態が免疫調節機能において最も研究されています。
酵母エキス末は、消化されずに腸管に到達し、腸管免疫系(GALT: Gut-Associated Lymphoid Tissue)に作用して免疫細胞を活性化します。これにより、感染症への抵抗力向上、疲労軽減、腸内環境の改善などの効果が期待されています。
酵母エキス末の特徴として、β-1,3結合の主鎖とβ-1,6結合の側鎖を持つβ-1,3/1,6-グルカン構造を有し、Dectin-1受容体を介した免疫細胞活性化により腸管免疫へ直接作用します。パン酵母由来で長い食用歴史を持つ天然由来の安全性があり、消化酵素で分解されず腸まで到達する水不溶性の性質を持ち、過剰反応を抑えながら防御機能を強化する免疫調節機能を有しています。
酵母エキス末は、上気道感染症(風邪)、インフルエンザ、疲労、免疫力低下などの予防と改善に関与することが、多数の臨床試験で示されています。
からだでの働きと科学的知見
上気道感染症(風邪)の発症頻度低下を助ける:
酵母エキス末の最も確立された効果は、風邪などの上気道感染症の発症頻度と症状の軽減です。
主要臨床試験では、162名の健康成人を対象に不溶性酵母β-1,3/1,6-グルカン900 mg/日を16週間摂取した結果、風邪の発症率が25%減少し(per protocol集団でp=0.041)、症状を伴う風邪エピソードの有意な減少と安全性プロファイルの良好さが確認されました。PMC
2024年にマレーシアで実施された最新のRCTプロトコルでは、中等度ストレス成人を対象に、ベータグルカン120 mg、204 mg、250 mg/日の3用量で90日間の介入が計画され、上気道感染症症状、疲労、免疫マーカー、腸内環境への効果が評価されています。PMC
システマティックレビュー・メタアナリシスでは、酵母ベータグルカンがプラセボと比較して、上気道感染症の発症率を有意に減少させ(OR = 0.345、p < 0.001)、平均エピソード数を減少させ(p < 0.05)、感染期間を短縮する(p < 0.001)ことが報告されています。PubMed
免疫細胞の活性化を助ける:
酵母ベータグルカンは、自然免疫系の主要細胞(マクロファージ、好中球、NK細胞、樹状細胞)を活性化し、病原体への防御能力を高めます。
ベータグルカンは、免疫細胞表面のDectin-1受容体に結合し、細胞内シグナル伝達経路(Syk-CARD9経路)を活性化することで、サイトカイン産生の促進(IL-12、TNF-α、IL-1β)、病原体の取り込み・破壊能力を高める貪食能の向上、獲得免疫を活性化する抗体産生の補助といった効果をもたらします。
疲労感の軽減に関与する:
酵母ベータグルカンの摂取は、身体的・精神的疲労の軽減に関与します。
複数の研究で、ベータグルカン摂取により主観的疲労スコアの改善、活力・エネルギーレベルの向上、ストレス関連症状の軽減が報告されています。
2024年のマレーシアRCTでは、中等度ストレス成人における疲労レベルへの効果が主要評価項目の1つとして設定されています。
腸内環境の改善を助ける:
酵母ベータグルカンは、プレバイオティクス様の効果を示し、腸内細菌叢のバランス改善に関与します。PMC
腸内で短鎖脂肪酸(SCFA)の産生増加、有益菌(ビフィズス菌・乳酸菌)の増殖促進、腸管バリア機能の強化、腸管免疫の調節が起こります。 Dectin-1受容体を介した免疫活性化:
ベータグルカンは、免疫細胞(特にマクロファージ・樹状細胞)表面のパターン認識受容体Dectin-1に結合することで、Syk-CARD9シグナル伝達経路の活性化、NF-κB経路の活性化、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β)の産生、Th1型免疫応答の誘導が起こります。
トレインド・イミュニティ(訓練免疫):
ベータグルカンは、エピジェネティック修飾を介して自然免疫細胞の「記憶」を形成し、再感染時の迅速な免疫応答、広範な病原体への交差防御、持続的な免疫増強効果をもたらします。PMC
腸管免疫系への直接作用:
ベータグルカンは腸管のパイエル板(Peyer's patches)やM細胞に取り込まれ、腸管免疫系を活性化することで、粘膜免疫を強化するIgA分泌の促進、免疫バランスを調整する制御性T細胞(Treg)の誘導、腸管バリア機能の維持を行います。PubMed
抗酸化・抗炎症作用:
ベータグルカンは、酸化ストレスと慢性炎症を軽減することで、活性酸素種(ROS)の消去、抗酸化酵素(SOD、カタラーゼ)の活性化、過剰な炎症反応の抑制を行います。
栄養素どうしの関係と注意点
酵母エキス末(ベータグルカン)は、一般的に安全性が非常に高い成分です。
報告されている副作用: ほとんどなし
稀に報告される症状として、軽度の胃腸症状(膨満感、ガス)やアレルギー反応(酵母アレルギーのある方は注意)があります。
禁忌・注意が必要な方として、酵母アレルギーのある方は使用を避け、自己免疫疾患のある方や免疫抑制療法中の方は医師に相談してください。
推奨摂取量: 100~900 mg/日(臨床研究に基づく)
摂り方とタイミング
推奨摂取量:
| 目的 | 推奨用量 | 備考 |
|---|---|---|
| 風邪予防・免疫維持 | 100~250 mg/日 | 日常的な免疫サポート |
| 感染症リスク高い時期 | 500~900 mg/日 | 冬季、ストレス時など |
| 疲労軽減 | 200~500 mg/日 | 継続摂取が推奨 |
効果的な摂取タイミングとして、1日の免疫活性化のため朝食時の摂取が推奨され、効果発現には4~16週間の継続が必要であり、予防的摂取が効果的なため感染症流行期前からの摂取が推奨されます。
併用で効果が期待できる成分として、免疫機能の相乗的サポートをするビタミンC、免疫調節機能を強化するビタミンD、免疫細胞の機能を維持する亜鉛、腸内環境改善との相乗効果をもたらすプロバイオティクス、風邪予防の追加サポートをするエキナセアがあります。
食品から摂るには
酵母エキス末(ベータグルカン)は、パン酵母(サッカロミセス・セレビシエ)を加工した栄養補助食品であり、通常の食品からは十分な量を摂取できません。
ただし、ベータグルカンを含む食品として、以下のようなものがあります:
ベータグルカンを含む食品として、パン酵母・ビール酵母・栄養酵母(ニュートリショナルイースト)などの酵母製品、β-1,3/1,4-グルカンを含むオート麦・大麦などの穀類、β-1,3/1,6-グルカンを含むシイタケ・マイタケ・霊芝などのキノコ類、β-1,3-グルカンを含むコンブ・ワカメなどの海藻類、含有量は少ないものの酵母を使用したパン製品があります。
食事からの摂取の限界:
これらの食品に含まれるベータグルカンには制約があり、酵母エキス末サプリメントほど高濃度ではない濃度の低さ、加熱により一部のベータグルカンが分解される可能性がある加熱調理の影響、穀類のβ-1,3/1,4-グルカンと酵母のβ-1,3/1,6-グルカンは構造が異なり免疫活性も異なるベータグルカンの種類の違い、食品中のベータグルカンは他の成分と混在しており吸収効率が低い精製度の問題、免疫サポート目的で必要な100〜900mg/日を食品から摂取するのが困難な量の調整が困難という課題があります。
最も免疫活性が高いのは酵母由来ベータグルカン:
臨床研究で免疫活性が最も確認されているのはパン酵母由来のβ-1,3/1,6-グルカンであり、その理由としてβ-1,3/1,6結合が免疫細胞に最も効率的に認識されるDectin-1受容体への高い親和性、消化酵素で分解されず腸まで到達して腸管免疫系を刺激する水不溶性の性質、サプリメントでは精製・標準化されたベータグルカンが使用される純度の高さがあります。
風邪予防、免疫力向上、疲労軽減を目的とする場合は、標準化された用量の酵母エキス末(ベータグルカン)サプリメントが推奨されます。
