ビタミンK2(MK-7)とは
ビタミンK2(メナキノン-7、MK-7)は、ビタミンKファミリーの一種で、主に納豆などの発酵食品に含まれる脂溶性ビタミンです。ビタミンKには複数の形態がありますが、MK-7は他のビタミンK類と比較して体内での半減期が長く、生物学的利用能が高いことが特徴です。
ビタミンK2は、骨の健康維持と血管の柔軟性維持に関与するビタミンKタンパク質(VKDPs: Vitamin K-Dependent Proteins)の活性化を助ける役割があります。特に、骨形成に関与するオステオカルシンや、血管石灰化抑制に関与するマトリックスGlaタンパク質(MGP)のカルボキシル化(γ-carboxylation)を促進することで、骨と血管の健康維持に寄与すると考えられています。
からだでの働きと科学的知見
骨の健康維持を助ける
ビタミンK2は、骨形成に関与するオステオカルシンのカルボキシル化を促進し、カルシウムを骨に沈着させる働きを助けます。オステオカルシンは骨芽細胞から分泌されるタンパク質で、カルボキシル化されることでカルシウム結合能を獲得し、骨の石灰化に関与します。
複数の臨床研究で、ビタミンK2(MK-7)の摂取が骨密度の維持や骨強度の改善に関与する可能性が報告されています。2020年の総説では、MK-7が骨ミネラル密度を増加させ、骨質と骨強度を促進することが示されています。PMCMK-7は他のビタミンK同族体と比較して高い生物学的利用能と長い半減期を持つため、推奨摂取量程度の栄養用量でも肝外ビタミンK依存性タンパク質のγ-カルボキシル化を促進できます。特に閉経後女性では、エストロゲン減少による骨量減少が課題となりますが、MK-7の摂取が骨の健康維持を助ける可能性が示されています。
血管の柔軟性維持を助ける
ビタミンK2は、マトリックスGlaタンパク質(MGP)のカルボキシル化を促進することで、血管壁へのカルシウム沈着(血管石灰化)を抑制する働きを助けます。MGPは血管平滑筋細胞から分泌されるタンパク質で、カルボキシル化されることで血管石灰化抑制機能を発揮します。
動脈硬化は血管の柔軟性が低下し、硬くなった状態を指します。2023年の多施設無作為化比較試験では、動脈硬化を有する血液透析患者96名を対象に、MK-7(375µg/日)を24週間摂取した結果、特に糖尿病を合併している患者において動脈硬化指標(cfPWV)が有意に改善しました。PMC
さらに、2024年の研究では、閉経後女性において1年間のMK-7補給が血管硬直度と血圧に有益な効果をもたらし、特にビタミンK状態が低い女性でより効果的であることが示されました。PMCこれらの研究は、ビタミンK2の摂取が血管の柔軟性維持を助け、動脈硬化の進行抑制に関与する可能性を示しています。
ビタミンKタンパク質の活性化を助ける
ビタミンK2は、複数のビタミンKタンパク質(VKDPs)のカルボキシル化を助ける補酵素として機能します。カルボキシル化されていないタンパク質(dp-ucMGP: desphospho-uncarboxylated MGP など)は、ビタミンK欠乏のマーカーとして使用されます。MK-7の摂取により、これらの未カルボキシル化タンパク質が減少し、活性型タンパク質が増加することで、骨や血管の健康維持機能が発揮されると考えられています。
2022年の総説では、ビタミンK2-7が骨粗鬆症、心血管疾患、炎症、がん、アルツハイマー病、糖尿病、末梢神経障害に対して健康ベネフィットをもたらす可能性が報告されています。PMC
心血管と骨以外の健康効果
ビタミンK2の効果は骨と血管の健康だけでなく、より広範な健康領域に及ぶ可能性が示されています。2021年のレビューでは、MK-7が骨と心血管の健康を超えた多様な健康効果を持つことが確認されており、実証されたメカニズムに基づく証拠が増加しています。PMC
さらに、2024年の研究では、ビタミンK2が認知機能障害に対して、血管の健康と脳の健康を結びつける役割を果たす可能性が示唆されています。動脈石灰化や動脈硬直度と認知症との関連が報告されており、ビタミンK2の血管保護作用が間接的に脳の健康維持に寄与する可能性があります。PMC
摂り方とタイミング
ビタミンK2(MK-7)のサプリメントでは、一般的に90~200µg/日程度が使用されています。臨床研究では180~375µg/日の範囲で効果が確認されています。
ビタミンKは脂溶性ビタミンのため、食事と一緒に摂取することで吸収が助けられる可能性があります。特に油を含む食事と一緒に摂取すると、吸収効率が向上すると考えられています。
栄養素どうしの関係と注意点
ビタミンK2は一般的に安全性の高い栄養素とされていますが、以下の点に注意が必要です。
抗凝固薬との相互作用
ワルファリン(ワーファリン)などのビタミンK拮抗型抗凝固薬を服用している方は、ビタミンKの摂取により薬の効果が減弱する可能性があります。これらの薬を服用している方は、ビタミンK2のサプリメント使用前に必ず医療専門家に相談してください。
なお、研究では通常の摂取量(180~375µg/日)では凝固系への影響はほとんど認められていませんが、抗凝固薬を服用している場合は特に注意が必要です。
新規抗凝固薬(DOAC)との併用
ダビガトラン、リバーロキサバン、アピキサバンなどの直接経口抗凝固薬(DOAC)は、ビタミンK拮抗型ではないため、理論的にはビタミンK2との相互作用は少ないとされています。ただし、使用前に医療専門家に相談することが推奨されます。
妊娠・授乳中
妊娠中や授乳中の安全性については、通常の食事からの摂取は問題ないとされていますが、高用量のサプリメント使用については十分なデータがありません。使用前に医療専門家に相談することが推奨されます。
過剰摂取
ビタミンK2は水溶性ビタミンと異なり、体内に蓄積される可能性があります。ただし、現時点では明確な毒性や副作用は報告されておらず、耐容上限量も設定されていません。それでも、推奨量を大幅に超える摂取は避けることが推奨されます。
個人差
骨や血管への効果には個人差があります。特に、ベースラインでの動脈硬化の程度や骨密度の状態によって、効果の現れ方が異なる可能性があります。
食品から摂るには
ビタミンK2(MK-7)は、主に発酵食品に含まれています。
発酵食品
- 納豆: MK-7の最も豊富な食品源。納豆菌(Bacillus subtilis)がMK-7を産生します。納豆100gあたり約600~1,000µgのMK-7を含むとされています。
- チーズ: 特にゴーダチーズ、ブリーチーズなどの熟成チーズにMK-7が含まれます。含有量は種類により異なります。
- サワークラウト: 発酵キャベツで、少量のMK-7を含みます。
- 発酵大豆製品: 味噌やテンペなどにも微量のMK-7が含まれます。
ビタミンK1(フィロキノン)は緑黄色野菜に豊富に含まれますが、体内でのMK-4への変換は限定的であり、MK-7への変換は確認されていません。そのため、MK-7を効率的に摂取するには、納豆などの発酵食品の摂取、またはサプリメントの利用が推奨されます。
