II型コラーゲン(非変性)とは
II型コラーゲンは、関節軟骨の主要な構成成分で、軟骨組織の約50~60%を占めるタンパク質です。特に「非変性II型コラーゲン(undenatured type II collagen)」は、コラーゲンの三重らせん構造が保たれた状態のもので、加熱や化学処理によって変性していない形態を指します。
UC-II®(Undenatured Collagen type II)は、鶏胸軟骨から特許製法で抽出された非変性II型コラーゲンのブランド名で、経口免疫寛容(oral tolerance)のメカニズムを通じて関節の健康維持に関与すると考えられています。NIHこれは、加水分解コラーゲンペプチドとは異なる作用機序を持ち、少量(40mg/日程度)で効果が期待される点が特徴です。
からだでの働きと科学的知見
経口免疫寛容による関節炎症の調整を助ける
非変性II型コラーゲンは、腸管関連リンパ組織(GALT: Gut-Associated Lymphoid Tissue)を介した経口免疫寛容のメカニズムにより、関節軟骨に対する過剰な免疫反応を抑制する働きを助けると考えられています。このメカニズムでは、非変性II型コラーゲンが小腸のパイエル板で免疫細胞に認識されることで、制御性T細胞(Treg)が活性化され、関節における軟骨成分(II型コラーゲン)に対する自己免疫的な炎症反応を抑制すると推測されています。NIHこれにより、関節の炎症や軟骨の分解を抑える可能性があります。
関節の可動域維持を助ける
2022年の多施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、運動に伴う関節不快感がある健康成人96名(20~55歳)を対象に、UC-II 40mg/日を24週間摂取した際の効果が評価されました。PubMed
その結果、UC-II摂取群では膝関節の屈曲可動域がプラセボ群と比較して有意に改善しました(3.23° vs 0.21°、p=0.025)。また、伸展可動域もUC-II群で2.21°の改善が見られました(p=0.0061)。
サブグループ解析では、35歳以上の被験者において、UC-II摂取群の膝関節屈曲可動域がプラセボ群と比較してより顕著に改善しました(6.79° vs 0.30°、p=0.0092)。この研究は、非変性II型コラーゲンが健康な成人の関節柔軟性と可動域の維持を助ける可能性を示しています。
変形性関節症の症状軽減を助ける
2009年の無作為化二重盲検臨床試験では、変形性膝関節症患者52名を対象に、UC-II 40mg/日を90日間摂取した際の効果が、グルコサミン+コンドロイチン(G+C)併用群と比較して評価されました。PubMed
その結果、UC-II摂取群では以下の指標で有意な改善が認められました:
- WOMACスコア(痛み・こわばり・機能の総合評価): 33%改善(G+C群は14%改善)
- VASスコア(視覚的疼痛評価): 40%改善(G+C群は15.4%改善)
- Lequesne機能指数(日常生活動作): 20%改善(G+C群は6%改善)
UC-II摂取群では、90日間の観察期間中、すべての評価項目でベースラインから有意な改善が見られ、日常生活の質(QOL)の向上が示唆されました。他の臨床試験でも、変形性膝関節症患者を対象としたUC-II 40mg/日の120日間摂取により、WOMAC総スコアの有意な改善、痛みの軽減、日常生活動作の改善が報告されており、重篤な副作用は報告されず、安全性も確認されています。
2025年の総説論文では、UC-II 40mg/日の短期・中期投与が安全かつ有効であり、炎症と痛みを軽減し、関節機能、可動域、全体的なQOLを改善することが確認されています。PubMedまた、2025年の無作為化対照試験では、UC-IIと加水分解コラーゲンの併用が12週間にわたり安全に使用でき、有害事象は報告されませんでした。PubMed
摂り方とタイミング
非変性II型コラーゲン(UC-II)のサプリメントでは、一般的に40mg/日が標準的な摂取量として使用されています。臨床研究でも40mg/日で効果が確認されており、この量はUC-II®の推奨用量となっています。
重要な点として、非変性II型コラーゲンは加水分解コラーゲンペプチドとは異なる作用機序(経口免疫寛容)で働くため、少量で効果が期待されます。加水分解コラーゲンのように数グラム単位での摂取は必要ありません。
摂取タイミングについては、空腹時(食前1時間または食後2時間)の摂取が推奨される場合がありますが、研究では特定のタイミングが指定されていないものもあります。製品の推奨に従うことが重要です。
食品から摂るには
非変性II型コラーゲンは、通常の食品からの摂取は困難です。II型コラーゲンは軟骨組織に含まれますが、食品として摂取する際には加熱調理により変性してしまうため、経口免疫寛容のメカニズムに必要な「非変性」の状態を保つことができません。
軟骨を含む食材(変性コラーゲン)
- 鶏軟骨: 焼き鳥や軟骨揚げなど、加熱調理されたもの
- 豚軟骨: 煮込み料理など
- 牛軟骨: スープや煮込み料理
- 魚の軟骨: 缶詰の骨など
これらの食材にはII型コラーゲンの分解産物が含まれますが、加熱により変性しているため、非変性II型コラーゲンとしての機能は期待できません。
したがって、経口免疫寛容のメカニズムによる関節の健康維持効果を期待する場合は、特許製法で抽出された非変性II型コラーゲン(UC-II®など)のサプリメントを利用することが推奨されます。
栄養素どうしの関係と注意点
非変性II型コラーゲンは一般的に安全性の高い成分とされていますが、以下の点に注意が必要です。
アレルギー
非変性II型コラーゲンは鶏胸軟骨から抽出されるため、鶏肉や鶏由来成分にアレルギーがある方は使用を避けてください。アレルギー反応(皮膚症状、呼吸器症状など)が生じる可能性があります。
自己免疫疾患
非変性II型コラーゲンは免疫系に作用するメカニズムを持つため、自己免疫疾患(関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、多発性硬化症など)がある方や免疫抑制療法を受けている方は、使用前に必ず医療専門家に相談してください。
臨床研究では関節リウマチ患者での有効性も報告されていますが、個々の病態や治療内容により影響が異なる可能性があります。
妊娠・授乳中
妊娠中や授乳中の安全性については十分なデータがありません。使用前に医療専門家に相談することが推奨されます。
薬剤との相互作用
免疫抑制剤や抗リウマチ薬を服用している方は、非変性II型コラーゲンとの相互作用の可能性について医療専門家に相談してください。
効果の発現時期
臨床研究では、効果の発現には通常4週間から12週間程度の継続摂取が必要とされています。即効性は期待できないため、継続的な摂取が重要です。
他のコラーゲンとの違い
非変性II型コラーゲンは、加水分解コラーゲンペプチドとは異なる作用機序を持ちます。両者を混同せず、目的に応じて適切に選択することが重要です。加水分解コラーゲンペプチドは皮膚や骨の健康に関与する一方、非変性II型コラーゲンは関節の免疫調整に関与すると考えられています。
