ストレプトコッカス・サリバリウス K12(BLIS K12)とは
ストレプトコッカス・サリバリウス K12(Streptococcus salivarius K12)は、ヒトの口腔・咽頭に自然に存在する善玉菌であり、特別な抗菌物質を産生する能力を持つプロバイオティクス菌株です。一般的にBLIS K12(Bacteriocin-Like Inhibitory Substance K12:バクテリオシン様阻害物質K12)として知られています。
この菌株は、ニュージーランドのオタゴ大学のJohn Tagg教授によって、咽頭連鎖球菌感染症(のど風邪)に罹患しない健康な子供の口腔から分離されました。長年の研究により、BLIS K12が産生するサリバリシンA2とサリバリシンBという2種類のバクテリオシン(抗菌ペプチド)が、病原菌の増殖を抑制することが明らかになりました。
BLIS K12の特徴
- 口腔定着能: 口腔・咽頭粘膜に定着し、継続的に抗菌物質を産生
- バクテリオシン産生: サリバリシンA2とサリバリシンBにより病原菌を選択的に抑制
- 安全性: ヒト由来の常在菌であり、高い安全性プロファイル
- 標的特異性: 病原性連鎖球菌を抑制しつつ、有益な口腔細菌には影響しない
- 長期効果: 定着後は摂取中止後も数週間~数ヶ月効果が持続
BLIS K12は、反復性咽頭炎・扁桃炎、急性中耳炎、口腔粘膜炎など、上気道および耳鼻咽喉領域の感染症予防に特に有効であることが、多数の臨床試験で実証されています。
からだでの働きと科学的知見
1. 反復性咽頭炎・扁桃炎の予防を助ける
BLIS K12の最も確立された効果は、**化膿性連鎖球菌(Streptococcus pyogenes、A群β溶血性連鎖球菌)**による咽頭炎・扁桃炎の予防です。S. pyogenesは、小児および成人の細菌性咽頭炎の最も一般的な原因菌であり、未治療の場合、リウマチ熱や糸球体腎炎などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
2012年の臨床試験(小児82名)では、反復性咽頭連鎖球菌感染の既往がある小児45名に対し、BLIS K12を1日50億CFU、90日間投与した結果、咽頭連鎖球菌感染のエピソード数が前年比で約90%減少し、6ヶ月フォローアップでも約65%の持続的な減少効果が確認されました。PMC
この予防効果は、BLIS K12が産生するサリバリシンA2とサリバリシンBが、S. pyogenesの咽頭粘膜への定着と増殖を抑制することによるものです。2013年の成人を対象としたランダム化比較試験でも、BLIS K12摂取により連鎖球菌性咽頭感染エピソードが約80%減少することが報告されています。PubMed
2. 急性中耳炎の予防に関与する
急性中耳炎(AOM)は、特に小児において極めて一般的な感染症であり、肺炎球菌、インフルエンザ菌、モラクセラ・カタラーリスなどの細菌が原因となります。BLIS K12は、これらの病原菌の増殖も抑制することが示されています。
2012年の同じ臨床試験では、急性中耳炎のエピソード数が前年比で約40%減少し、6ヶ月フォローアップでも減少効果が持続しました。中耳炎の予防メカニズムは、咽頭に定着したBLIS K12が、耳管(ユースタキオ管)を通じて中耳に到達する病原菌の増殖を抑制することによります。
一方、2023年に発表された大規模ランダム化比較試験(827名の小児、平均年齢2.8歳)では、BLIS K12がAOMの発生率を有意に減少させなかったと報告されています。PMCこの研究は、より若年の小児(3歳未満が多数)を対象としており、定着率や免疫応答が年齢により異なる可能性を示唆しています。2020年の実験室研究では、BLIS K12がAOMの主要原因菌に対して抗菌活性を示すことが確認されており、PubMed効果には個人差や年齢差がある可能性が考えられます。
3. ウイルス性咽頭炎と免疫調節機能の改善を助ける
興味深いことに、BLIS K12は細菌性感染だけでなく、ウイルス性咽頭炎の予防にも関与することが示されています。これは、バクテリオシンの直接的な抗ウイルス作用ではなく、免疫調節機能の強化によるものと考えられています。
2014年の研究では、BLIS K12を摂取した小児グループにおいて、ウイルス性咽頭扁桃炎の発症率が低下しました。この効果は、インターフェロン-γ(IFN-γ)の産生増加と関連していることが示されています。
免疫調節メカニズム:
- IFN-γ産生の促進: Th1型免疫応答を活性化し、ウイルス感染防御を強化
- 粘膜免疫の強化: sIgA(分泌型免疫グロブリンA)の産生促進
- 炎症反応の調節: 過剰な炎症を抑制し、粘膜の健全性を維持
- NK細胞活性の向上: 自然免疫系を強化
2024年12月に発表されたシステマティックレビューでは、BLIS K12が小児の咽頭炎・扁桃炎・中耳炎の予防に有効であり、免疫調節機能を通じた広範な健康効果が期待されることが再確認されました。PubMed
4. 口腔健康の維持と上気道感染予防に関与する
BLIS K12は、口腔・咽頭の健康維持と上気道感染予防に広範な効果を示します。実際の学校環境での実践的試験では、BLIS K12が上気道感染症の予防に有効であることが確認されています。PubMed
口腔健康への作用:
- 病原菌の抑制: 歯周病菌、虫歯菌などの病原菌の増殖を抑制
- 口臭の軽減: 揮発性硫黄化合物(VSC)を産生する嫌気性菌を抑制
- 粘膜保護: 炎症性サイトカインの産生を抑制し、粘膜を保護
- 口腔フローラバランス: 有益菌と病原菌のバランスを適正に維持
これらの効果により、BLIS K12は口腔衛生の維持と歯周病予防にも寄与する可能性があります。
栄養素どうしの関係と注意点
安全性プロファイル
ストレプトコッカス・サリバリウス K12は、ヒトの口腔に自然に存在する常在菌であり、極めて高い安全性を持っています。
主要な安全性の特徴:
-
自然由来の常在菌
- もともと人体に存在する菌であるため、外来病原体のリスクがない
- 長期間の使用実績があり、重篤な副作用の報告はない
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全年齢層での使用実績
- 3歳以上の小児から成人、高齢者まで幅広く使用可能
- 妊娠中・授乳中の使用に関するデータは限定的だが、理論的には安全と考えられる
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選択的な抗菌作用
- 有益な口腔常在菌には影響せず、病原菌のみを抑制
- 口腔フローラのバランスを崩すリスクが低い
報告されている副作用
臨床試験では、BLIS K12の摂取による副作用はほとんど報告されていません。
稀に報告される軽微な症状:
- 一時的な口腔内の違和感(摂取初期)
- 軽度の口渇(稀)
これらの症状は通常、数日以内に自然に解消します。
注意が必要な場合
以下の場合は、使用前に医師に相談することが推奨されます:
相談が推奨される状況:
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免疫不全状態
- 重度の免疫不全患者(HIV/AIDS末期、臓器移植後の強力な免疫抑制療法中など)
- 理由: 極めて稀だが、常在菌の日和見感染のリスク
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心臓弁膜症・人工弁置換術後
- 感染性心内膜炎の既往がある場合
- 理由: 口腔細菌の菌血症リスクに対する予防的配慮
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連鎖球菌アレルギー
- 連鎖球菌由来の製品に対するアレルギーの既往
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3歳未満の乳幼児
- 安全性データが限定的であるため、医師の指導下で使用
重要: これらの状況でも、BLIS K12は一般的に安全とされていますが、個別の健康状態に応じて医師の判断を仰ぐことが賢明です。
摂り方とタイミング
推奨摂取量
臨床研究に基づく推奨摂取量は、1日あたり10~50億CFUです。
| 目的 | 推奨用量 | 摂取期間 |
|---|---|---|
| 反復性咽頭炎・扁桃炎の予防 | 50億CFU/日(1錠) | 初回90日間、その後維持的に継続 |
| 急性中耳炎の予防(小児) | 50億CFU/日(1錠) | 初回90日間、その後季節性に使用 |
| 口腔健康の維持 | 10~50億CFU/日(1錠) | 継続的摂取 |
| 口腔粘膜炎の予防・緩和 | 50億CFU/日(1錠) | 放射線治療期間中および終了後 |
| 風邪・インフルエンザの予防 | 50億CFU/日(1錠) | 感染症シーズン中(秋~春) |
効果的な摂取タイミングと方法
1. 口腔内徐放錠(ロゼンジ)の使用
- 最も推奨される形態: 口腔内でゆっくり溶かすロゼンジ(錠剤)
- 理由: 口腔・咽頭粘膜への直接的な接触時間を最大化し、定着を促進
2. 就寝前の摂取
- 推奨タイミング: 夕食後の歯磨き後、就寝直前
- 理由:
- 夜間は唾液分泌が減少し、菌が洗い流されにくい
- 長時間の接触により、口腔・咽頭粘膜への定着が促進される
- 飲食による菌の流失を最小限に抑える
3. 摂取後の注意
- 摂取後30分間は飲食を避ける(特に初期の定着期間)
- 摂取後すぐのうがいや口すすぎを避ける
- 水分摂取は摂取前に済ませておく
4. 継続期間
- 初期定着期間: 最初の90日間は毎日継続摂取
- 維持期間: 90日後は、週に数回または感染症シーズン中のみの摂取も有効
- 個人差: 約50%の人で安定した定着が得られ、摂取中止後も効果が数週間~数ヶ月持続
併用で効果が期待できる成分
1. ビタミンC
- 理由: 免疫機能の強化、粘膜の健全性維持
- 推奨量: 500~1000 mg/日
2. ビタミンD
- 理由: 免疫調節機能の強化、上気道感染予防
- 推奨量: 1000~2000 IU/日
3. 亜鉛
- 理由: 免疫細胞の機能強化、粘膜修復
- 推奨量: 10~15 mg/日(ロゼンジ形態も有効)
4. プロポリス
- 理由: 抗菌・抗炎症作用、相乗効果が期待される
- 形態: スプレーまたは錠剤
5. エキナセア
- 理由: 免疫賦活作用、上気道感染予防
- 摂取期間: 感染症シーズン中
製品選びのポイント
- 菌株の明記: "Streptococcus salivarius K12" または "BLIS K12" の表示があるもの
- CFU数の表示: 最低10億CFU、理想的には50億CFU以上/錠
- ロゼンジ形態: カプセルではなく、口腔内で溶かすロゼンジ(トローチ)タイプ
- 砂糖不使用: キシリトールなどの代替甘味料を使用したもの(虫歯予防のため)
- 品質保証: GMP認証など、品質管理が確認されているもの
- 生菌保証: 製造日からの菌数保証期間が明記されているもの
食品から摂るには
ストレプトコッカス・サリバリウス K12(BLIS K12)は、通常の食品からは摂取できません。この菌株は特定のプロバイオティクスサプリメントとしてのみ入手可能です。
サプリメント形態
BLIS K12は以下の形態で製品化されています:
1. 口腔内徐放錠(ロゼンジ)
- 最も推奨される形態: 口腔内でゆっくり溶かすトローチタイプ
- 利点: 口腔・咽頭粘膜への直接接触時間が長く、定着を促進
- 使用方法: 噛まずに口腔内で溶かす(通常10〜15分)
- タイミング: 就寝前の歯磨き後が最も効果的
2. 咀嚼タブレット
- 特徴: 噛んで摂取できるタイプ
- 注意: ロゼンジタイプより接触時間が短いため、効果がやや劣る可能性
3. 粉末・カプセル(非推奨)
- 注意: カプセルや粉末を飲み込む形態は、口腔内での接触時間が不十分で、定着効果が低い
- 理由: BLIS K12は口腔・咽頭粘膜に定着することで効果を発揮するため、直接接触が重要
一般食品に含まれない理由
BLIS K12は以下の理由で一般食品には含まれていません:
- 特定菌株: 特許取得済みの特定菌株であり、自然食品中には存在しない
- 生菌の維持: 生きた菌として口腔に到達させる必要があり、通常の食品製造プロセス(加熱・加工)では菌が死滅する
- 定着の必要性: 口腔内でゆっくり溶かす必要があり、通常の食品摂取では効果が得られない
- 菌数の管理: 効果を発揮するには10〜50億CFUの菌数が必要で、一般食品では実現困難
ヨーグルトやプロバイオティクス食品との違い
一般的なプロバイオティクス食品(ヨーグルト、発酵乳など):
- 主に腸内環境改善を目的とした菌株(ラクトバチルス、ビフィズス菌など)
- 飲み込んで腸に到達させることが目的
BLIS K12:
- 口腔・咽頭に定着させることが目的
- 腸ではなく上気道での効果を狙う
- 飲み込まず、口腔内でゆっくり溶かす必要がある
製品の選び方
BLIS K12サプリメントを選ぶ際は、以下を確認してください:
- 菌株の明記: "Streptococcus salivarius K12" または "BLIS K12" の表示
- CFU数: 最低10億CFU、理想的には50億CFU以上/錠
- ロゼンジ形態: 口腔内で溶かすタイプを選択
- 砂糖不使用: キシリトールなどの代替甘味料使用(虫歯予防)
- 品質保証: GMP認証、菌数保証期間の明記
まとめ
ストレプトコッカス・サリバリウス K12(BLIS K12)は、ヒトの口腔・咽頭に自然に存在する善玉菌であり、反復性咽頭炎・扁桃炎の予防、急性中耳炎の予防、口腔免疫機能の調節、ウイルス性上気道感染の予防に関与することが、多数の臨床試験で実証されています。
主要なポイント:
- 高い予防効果: 咽頭連鎖球菌感染を約90%減少、急性中耳炎を約40%減少
- バクテリオシン産生: サリバリシンA2・Bにより病原菌を選択的に抑制
- 口腔定着: 口腔・咽頭粘膜に定着し、継続的な保護効果を提供
- 免疫調節: IFN-γ産生促進により、ウイルス感染にも対抗
- 持続効果: 摂取中止後も数週間~数ヶ月効果が持続(定着成功者)
- 高い安全性: ヒト由来常在菌であり、全年齢層で安全に使用可能
- 臨床的推奨: 1日50億CFU、就寝前に口腔内徐放錠として90日間継続
特に、反復性咽頭炎・扁桃炎で悩む小児や頻繁に風邪をひく成人にとって、BLIS K12は抗生物質の使用頻度を減らし、耐性菌のリスクを低減する有効な予防戦略です。また、急性中耳炎を繰り返す小児や口腔粘膜炎に悩むがん治療患者にも、症状の軽減と予防に有用な選択肢となります。
咽頭炎や扁桃炎、中耳炎が気になる方、上気道感染症の予防を目指す方、口腔健康の維持に関心がある方にとって、BLIS K12は科学的根拠に基づいた信頼性の高い口腔プロバイオティクスです。ただし、定着には個人差があるため、初回90日間の継続摂取が効果を最大化する鍵となります。
免責事項: この記事は教育・情報提供を目的としており、医学的アドバイスを提供するものではありません。特定の健康状態や症状に対する治療については、必ず医師や医療専門家にご相談ください。サプリメントの使用を開始する前に、特に既存の健康問題がある場合や他の薬を服用している場合は、医療提供者に相談することをお勧めします。
