脂肪酸・脂質

飽和脂肪酸|適量管理が重要なエネルギー源

脂質管理が気になる人に向け、飽和脂肪酸が体内でエネルギー源として働く一方、過剰摂取がLDLコレステロール上昇や心血管疾患リスクに関わる理由を一次情報に基づいてやさしく解説します。

透明なガラスのボウルに黄色いクリーム
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摂取基準値
RDA(推奨量)mg
AI(目安量)mg
UL(耐容上限量)mg

日本人の食事摂取基準(2025年版)に基づく。飽和脂肪酸の目標量:総エネルギーの7%以下。推定エネルギー必要量2700kcalの場合、約21g/日以下

脂質管理が気になる人に向けた、適量管理が重要な脂肪酸の一種です。 飽和脂肪酸は、エネルギー源や細胞膜の構成成分として働きますが、過剰摂取はLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させ、心血管疾患のリスクを高めることが確認されています。 主に動物性食品(肉の脂身、バター、ラードなど)に多く含まれ、日本の食事摂取基準では総エネルギーの7%未満に抑えることが推奨されています。

  • 主な働き:エネルギー供給、細胞膜構成、体温調節
  • 摂取基準:総エネルギーの7%未満(日本)、10%未満(WHO)
  • 注意:過剰摂取でLDLコレステロール上昇、心血管疾患リスク増加
  • 多い食品:肉の脂身、バター、ラード、ココナッツオイル、パーム油
  • 適量管理:不飽和脂肪酸とのバランスが重要

飽和脂肪酸とは

飽和脂肪酸は、炭素原子間の二重結合を持たない(すべて単結合で「飽和」している)脂肪酸の総称です。化学構造が安定しているため、常温で固体になりやすく、酸化されにくい特徴があります。主な種類として、パルミチン酸(C16:0)、ステアリン酸(C18:0)、ミリスチン酸(C14:0)、ラウリン酸(C12:0)などがあります。厚生労働省

飽和脂肪酸は主に動物性食品(肉の脂身、バター、ラード、チーズなど)に多く含まれますが、植物性食品でもココナッツオイルやパーム油に高濃度で含まれます。体内でも糖質や脂質からエネルギーが余った場合に合成され、体脂肪として蓄積されます。

飽和脂肪酸は生命維持に不可欠な栄養素ですが、現代の食生活では過剰摂取になりやすいため、摂取量の管理が重要です。

からだでの働きと科学的知見

飽和脂肪酸は体内で重要な役割を担いますが、過剰摂取による健康リスクも明確に確認されています。

エネルギー供給は、飽和脂肪酸の主要な機能です。1gあたり9kcalと高エネルギー密度を持ち、効率的なエネルギー源となります。体内で中性脂肪として蓄えられ、必要時に分解されてエネルギーとして利用されます。

細胞膜の構成にも関与します。細胞膜のリン脂質には飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の両方が含まれ、膜の流動性と安定性のバランスを保ちます。適度な飽和脂肪酸は細胞膜の構造維持に必要です。PubMed

LDLコレステロールの上昇は、飽和脂肪酸の最も確立された健康リスクです。飽和脂肪酸は肝臓でのLDL受容体の活性を低下させ、血中LDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させます。LDLコレステロールの上昇は、動脈硬化の主要な原因となり、心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など)のリスクを高めます。PMC

心血管疾患リスクの増加については、多くの疫学研究で因果関係が確認されています。飽和脂肪酸の摂取量と心血管疾患リスクの間には正の相関があり、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸(特に多価不飽和脂肪酸)に置き換えることで、心血管疾患リスクが低下することが示されています。PubMed

炎症との関連も示されています。飽和脂肪酸の過剰摂取は、体内の炎症マーカー(CRP、IL-6など)を増加させ、慢性炎症を促進する可能性があります。慢性炎症は、心血管疾患、糖尿病、がんなど多くの慢性疾患の共通リスク因子です。

インスリン抵抗性への影響も研究されています。飽和脂肪酸の過剰摂取は、細胞のインスリン感受性を低下させ、血糖調節を悪化させる可能性があります。これは2型糖尿病のリスク増加につながります。

脂肪酸の種類による違いも重要です。すべての飽和脂肪酸が同じ影響を持つわけではなく、ステアリン酸(C18:0)はLDLコレステロールへの影響が小さい一方、パルミチン酸(C16:0)やミリスチン酸(C14:0)は影響が大きいとされています。 飽和脂肪酸と心血管疾患リスクに関する包括的レビューでは、飽和脂肪酸の過剰摂取がLDLコレステロール上昇を介して心血管疾患リスクを高める一貫したエビデンスが確認されています。PubMed

研究テーマ エビデンス強度 補足
エネルギー供給・貯蔵 生化学的に確立された基本的役割
細胞膜構成 構造的成分として不可欠
LDLコレステロール上昇 因果関係が明確に確認されている
心血管疾患リスク増加 多数の疫学研究で確認、置き換え効果も実証
炎症マーカー増加 複数の研究で示唆、メカニズム解明が進行中
インスリン抵抗性 動物実験・ヒト試験で示唆、更なる検証が必要

摂り方とタイミング

日本人の食事摂取基準(2020年版)では、飽和脂肪酸の摂取量を総エネルギーの7%未満に抑えることが目標量とされています。例えば、1日2,000kcalを摂取する場合、飽和脂肪酸は約140kcal(約15.6g)以下が目安です。WHOは10%未満を推奨しています。WHO

飽和脂肪酸の摂取を減らすための実践的な方法は以下の通りです。

肉の選び方と調理法:脂身の多い肉(バラ肉、ロース肉)ではなく、赤身肉(ヒレ肉、もも肉)を選びます。鶏肉は皮を取り除くことで飽和脂肪酸を大幅に減らせます。調理法では、揚げ物よりも蒸す・焼く・煮るなどを選び、余分な脂を落とします。

乳製品の選び方:全脂肪乳製品(全乳、バター、クリーム、チーズ)ではなく、低脂肪または無脂肪の乳製品を選ぶことで、飽和脂肪酸の摂取を減らせます。

油の選び方:バター、ラード、ココナッツオイル、パーム油などの飽和脂肪酸が多い油ではなく、オリーブオイル、キャノーラ油、大豆油などの不飽和脂肪酸が多い油を選びます。

加工食品の確認:菓子パン、スナック菓子、インスタント食品、ファストフードなどには、パーム油やココナッツオイルが使用されていることが多く、飽和脂肪酸が高濃度です。成分表示を確認し、摂取を控えめにします。

不飽和脂肪酸との置き換えが重要です。飽和脂肪酸を単に減らすだけでなく、不飽和脂肪酸(特にオメガ3脂肪酸、オメガ6脂肪酸)を適度に摂取することで、心血管疾患リスクがより効果的に低下します。

栄養素どうしの関係と注意点

飽和脂肪酸は他の栄養素とのバランスが重要です。

組み合わせ 推奨度 コメント
飽和脂肪酸×不飽和脂肪酸 飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えが推奨
飽和脂肪酸×食物繊維 食物繊維がコレステロール吸収を抑制
飽和脂肪酸×植物ステロール 植物ステロールがLDL低下を助ける
飽和脂肪酸×トランス脂肪酸 × 両方とも心血管疾患リスク、両方を減らす
飽和脂肪酸×コレステロール 両方を過剰摂取すると心血管疾患リスク増大

飽和脂肪酸の過剰摂取は、以下の健康リスクを高めます。

心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中など):LDLコレステロール上昇により、動脈硬化が進行し、心血管疾患のリスクが増加します。これは最も確立された健康リスクです。

脂質異常症(高コレステロール血症):血中LDLコレステロールが140mg/dL以上になると、脂質異常症と診断され、治療が必要になる場合があります。

肥満:飽和脂肪酸は高エネルギー密度のため、過剰摂取はエネルギー過剰につながり、体重増加・肥満のリスクが高まります。

2型糖尿病:飽和脂肪酸の過剰摂取がインスリン抵抗性を高め、2型糖尿病のリスクを増加させる可能性があります。

一部のがん:飽和脂肪酸の過剰摂取が大腸がんや乳がんのリスクを高める可能性が示唆されていますが、エビデンスは心血管疾患ほど確立されていません。

極端な低脂肪食も問題です。脂質(飽和脂肪酸を含む)は、脂溶性ビタミン(A、D、E、K)の吸収、ホルモン合成、細胞膜の構造維持に必要です。極端に減らしすぎると、これらの機能が損なわれる可能性があります。適度な摂取量(総エネルギーの7%未満)を守ることが重要です。

食品から摂るには

飽和脂肪酸は多くの食品に含まれますが、摂取量を管理するには、多い食品と少ない食品を知ることが重要です。

飽和脂肪酸が多い食品(100gあたりの含有量)

  • バター:約51g
  • ココナッツオイル:約87g
  • パーム油:約49g
  • ラード(豚脂):約39g
  • 牛脂:約42g
  • 牛バラ肉:約19g
  • 豚バラ肉:約13g
  • チーズ(チェダー):約21g
  • 生クリーム:約23g
  • ソーセージ:約10〜15g
  • 菓子パン・ケーキ:約5〜15g(使用油脂による)

飽和脂肪酸が少ない食品

  • 魚類:サバ(2.9g)、サンマ(4.5g)、サケ(2.4g)- 不飽和脂肪酸が豊富
  • 赤身肉:牛もも肉(2.2g)、豚ヒレ肉(1.1g)、鶏ささみ(0.2g)
  • 植物油:オリーブオイル(14g)、キャノーラ油(7g)、大豆油(15g)- 不飽和脂肪酸が主成分
  • ナッツ類:アーモンド(3.7g)、くるみ(6.1g)- 不飽和脂肪酸が豊富
  • 大豆製品:豆腐(0.5g)、納豆(1.0g)

飽和脂肪酸の摂取を減らすには、上記の「多い食品」を控えめにし、「少ない食品」を積極的に摂取することが推奨されます。特に、動物性脂肪を減らし、魚油やナッツ類、オリーブオイルなどの不飽和脂肪酸を多く含む食品に置き換えることで、心血管疾患リスクが低下します。

よくある質問

Q. 飽和脂肪酸は完全に避けるべきですか?

いいえ。飽和脂肪酸は細胞膜の構成やエネルギー源として必要な栄養素です。完全に避ける必要はありませんが、過剰摂取を避け、総エネルギーの7%未満に抑えることが推奨されます。

Q. どのくらいの量が適切ですか?

日本の食事摂取基準では、総エネルギーの7%未満が目標量です。1日2,000kcalの場合、約140kcal(約15.6g)以下が目安です。成分表示を確認し、日々の摂取量を意識してください。

Q. ココナッツオイルは健康に良いと聞きましたが?

ココナッツオイルは約87%が飽和脂肪酸で、LDLコレステロールを上昇させることが確認されています。一部で健康効果が主張されていますが、心血管系の健康のためには、オリーブオイルやキャノーラ油などの不飽和脂肪酸が多い油を優先することが推奨されます。

Q. 肉を食べてはいけませんか?

肉は良質なたんぱく質、鉄分、ビタミンB群の供給源です。赤身肉を選び、脂身を取り除き、適量(1日80〜100g程度)を摂取することで、飽和脂肪酸を抑えながら肉の栄養を得られます。

Q. 飽和脂肪酸を減らすにはどうすれば良いですか?

以下の方法が効果的です:①脂身の多い肉を赤身肉に変更、②全脂肪乳製品を低脂肪に変更、③バター・ラードをオリーブオイルに変更、④揚げ物を減らし蒸す・焼くを増やす、⑤加工食品・ファストフードを控える。

Q. LDLコレステロールが高い場合はどうすれば良いですか?

まず飽和脂肪酸の摂取を総エネルギーの7%未満に抑え、トランス脂肪酸も避けてください。不飽和脂肪酸(特にオメガ3)、食物繊維、植物ステロールを積極的に摂取します。改善しない場合は、医師に相談し、必要に応じて薬物療法を検討してください。

Q. 子どもも飽和脂肪酸を制限すべきですか?

成長期の子どもは脂質が必要ですが、過剰な飽和脂肪酸は避けるべきです。バランスの取れた食事で、適度な脂質(総エネルギーの20〜30%)を摂取し、飽和脂肪酸は7%未満を目安にしてください。極端な制限は成長に悪影響を与える可能性があります。

本ページは公開資料や専門書を参考に要約した成分ガイドです。サプリメントを使用する際は医師・薬剤師など専門家の助言もあわせてご確認ください。