血圧や心血管の健康が気になる人に向けた、熟成ニンニクエキス由来の水溶性硫黄化合物です。 S-アリルシステイン(SAC)は、生ニンニクに含まれるアリシンとは異なり、安定性が高く刺激が少なく、血圧調整や抗酸化作用が研究されています。 日本では機能性表示食品として「血圧が高めの方の血圧を下げる」効果が認められており、臨床試験で降圧薬との併用効果も確認されています。
- 主な働き:血圧低下サポート、血管内皮機能改善、抗酸化作用、脂質代謝改善
- 摂るタイミング:食後に1日1〜5mg(熟成ニンニクエキスとして200〜1,000mg)
- 相性:降圧薬との併用で追加的な血圧低下効果(医師の管理下で)
- 注意:抗凝固薬・降圧薬使用中は医師に相談、手術前は使用中止
- 食品例:熟成ニンニクエキス、熟成黒ニンニクエキス(生ニンニクには少量)
S-アリルシステインとは
S-アリルシステイン(SAC: S-allyl-cysteine)は、熟成ニンニクエキス(Aged Garlic Extract、AGE)に含まれる水溶性の硫黄化合物です。生ニンニクには少量しか含まれませんが、長期熟成(10〜20ヶ月)により、アリイン(不安定な前駆体)からSACへと変換され、含有量が大幅に増加します。
SACは、生ニンニクに含まれるアリシン(刺激性・不安定)と異なり、安定性が高く、刺激が少なく、水溶性で吸収されやすい特徴があります。近年の研究では、SACの心血管保護作用、抗酸化作用、神経保護作用、抗炎症作用が注目されています。2025年に発表された研究では、熟成ニンニクエキスの心血管保護メカニズムが詳細に評価され、SACの血圧調整と抗酸化作用が確認されています。PubMed
日本では、SACを関与成分とした機能性表示食品が届出されており、「血圧が高めの方の血圧を下げる」効果が認められています。
からだでの働きと科学的知見
S-アリルシステインは、血圧調整、血管内皮機能改善、抗酸化作用、脂質代謝改善、神経保護など多面的な健康効果が臨床研究で報告されています。
血圧の低下を助ける
2023年の三重盲検ランダム化比較試験では、グレードI高血圧患者(降圧薬服用中)に対し、SAC 0.25mg/日を含む最適化熟成黒ニンニクエキスを12週間投与した結果、収縮期血圧が1.8mmHg、拡張期血圧が1.5mmHg低下し、血中一酸化窒素(NO)が10.3μM増加、抗酸化能が向上し、尿酸とACE活性が有意に減少しました。PMCこの結果は、低用量SACでも降圧薬との併用で追加的な血圧低下効果が得られることを示しています。
他の臨床試験では、熟成ニンニクエキス480mg(SAC 1.2mg含有)の12週間投与により、未治療高血圧患者の収縮期血圧が平均11.8mmHg低下したことが報告されています。PMC「AGE at Heart trial」として知られる大規模臨床研究でも、同様の投与量で血圧および心血管リスク因子の有意な改善が確認されています。PubMedSACは、血管内皮細胞のeNOS(内皮型一酸化窒素合成酵素)を活性化してNO産生を促進し、血管拡張を誘導します。ニンニク由来のポリサルファイドは硫化水素の産生を刺激し、内皮型一酸化窒素の調節を強化することで、血管平滑筋の弛緩と血管拡張を誘導することが明らかにされています。PubMed
またSACは、ACE(アンジオテンシン変換酵素)を阻害し、強力な血管収縮物質であるアンジオテンシンIIの産生を抑制することで血圧を低下させます。
脂質代謝の改善を助ける
熟成黒ニンニクエキス500mg/日(SAC 2.5mg含有)の12週間投与により、トリグリセリドが12.3%、総コレステロールが11.8%減少し、収縮期血圧が5.3%、拡張期血圧が6.5%低下したことが報告されています。これらの心血管マーカーの改善は、SACの抗酸化作用と抗炎症作用を介した複合的な効果と考えられます。
抗酸化作用を助ける
SACは、活性酸素種(ROS)を直接消去し、Nrf2(nuclear factor erythroid 2-related factor 2)転写因子を活性化して抗酸化酵素遺伝子(SOD、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ)の発現を増加させます。また、LDLコレステロールの酸化を抑制し、動脈硬化の進行を抑制する可能性があります。熟成ニンニクエキスの抗酸化作用は、内皮型一酸化窒素合成酵素の活性化と血管拡張を通じて心血管保護に寄与することが、複数の臨床研究で確認されています。PMC
神経保護作用を助ける
動物実験では、SACが脳血流の改善、神経細胞のアポトーシス抑制、抗炎症作用により、認知機能の改善やアルツハイマー病モデルでのアミロイドβ蓄積抑制に関与することが報告されています。ヒト試験でのエビデンスは限られているものの、SAの神経保護作用は今後の研究が期待される分野です。
| 研究テーマ | エビデンス強度 | 補足 |
|---|---|---|
| 血圧低下 | 高 | 複数のRCTで効果確認、降圧薬併用可能 |
| 血管内皮機能改善 | 中〜高 | NO産生促進、ACE阻害 |
| 抗酸化作用 | 高 | Nrf2経路活性化、LDL酸化抑制 |
| 脂質代謝改善 | 中 | TG・TC減少、臨床的意義は更なる検証必要 |
| 神経保護 | 低 | 動物実験で示唆、ヒト試験不足 |
摂り方とタイミング
血圧改善目的では、SAC 1〜5mg/日(熟成ニンニクエキスとして200〜1,000mg)が一般的です。心血管健康維持目的では、SAC 1〜2.5mg/日(熟成ニンニクエキスとして200〜500mg)が推奨されます。
摂取タイミングは食後が推奨されます。胃腸への刺激を軽減し、吸収を安定させるためです。血圧降下効果は8〜12週間の継続で最大になるため、短期間での判断は避けてください。
降圧薬使用中の方は、血圧を定期的にモニタリングし、医師に報告することが重要です。臨床試験では、低用量SAC(0.25mg/日)でも降圧薬との併用で追加的な血圧低下効果が確認されていますが、自己判断での併用は避け、必ず医師の管理下で使用してください。
栄養素どうしの関係と注意点
S-アリルシステインは、適切な用量(1日1〜5mg程度)であれば、一般的に安全性が高いとされています。
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| SAC×降圧薬 | ○ | 追加的な血圧低下効果、医師の管理下で使用 |
| SAC×抗凝固薬 | △ | 抗凝固作用の増強の可能性、医師に相談 |
| SAC×脂質異常薬 | ○ | 相乗的な脂質改善の可能性、医師に相談 |
抗凝固薬使用中の方は、ニンニクが抗凝固作用を持つ可能性があるため、ワルファリン等との併用は医師に相談してください。降圧薬使用中の方は、SACが血圧を下げるため、血圧が下がりすぎる可能性があります。血圧モニタリングと医師への相談が必要です。手術前には、抗凝固作用があるため、手術の1〜2週間前には使用を中止してください。妊娠・授乳中は、安全性データが限られているため、使用を避けてください。
軽微な副作用として、軽度の胃腸症状やニンニク臭(熟成ニンニクエキスは生ニンニクより少ない)が稀に報告されています。
食品から摂るには
S-アリルシステインは、生ニンニクには少量しか含まれません。熟成ニンニクエキス(Aged Garlic Extract)または熟成黒ニンニクエキスを選択することで、標準化されたSACを摂取できます。
製品選択のポイント:
- SAC含有量の確認: 製品ラベルでSAC含有量が明記されているものを選びましょう
- 熟成エキス製品: 生ニンニクや普通のニンニクサプリメントではSAC含有量が少ないため、熟成エキス製品を選択してください
- 機能性表示食品: 日本では、SACを関与成分とした機能性表示食品が届出されており、品質管理と効果の信頼性が高いです
黒ニンニクは、生ニンニクを高温・高湿度で熟成させた食品で、SAC含有量が増加しますが、サプリメントとしては、SAC含有量が明確な熟成ニンニクエキス製品が推奨されます。
