S-アセチルL-グルタチオンとは
グルタチオン(GSH)は、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸から構成されるトリペプチドで、体内で最も重要な抗酸化物質の一つです。PMC細胞の酸化ストレスから保護し、解毒作用や免疫機能の維持に関与していますが、通常のグルタチオンは経口摂取時に消化管で分解されやすく、吸収率が非常に低いという課題があります。
S-アセチルL-グルタチオン(SAG、S-Acetyl-L-Glutathione)は、グルタチオンのシステイン部分にアセチル基(-COCH₃)が結合した形態で、この吸収率の問題を解決するために開発されました。アセチル化により、消化管での分解に対する安定性が向上し、細胞内に到達した後に脱アセチル化されて活性型グルタチオン(GSH)として機能します。2025年に発表された安全性評価では、S-アセチルグルタチオンが食品や栄養補助食品における使用に適した生体利用可能な形態として、循環グルタチオンレベルの回復と維持に有効であることが確認されています。PubMed
からだでの働きと科学的知見
通常のグルタチオンと比較した高い吸収率
S-アセチルL-グルタチオンの最大の特徴は、通常のグルタチオンと比較して顕著に高い経口吸収率(バイオアベイラビリティ)です。研究では、S-アセチル化により消化管での分解が抑制され、血中および細胞内のグルタチオン濃度が効率的に上昇することが報告されています。
この改善は、以下のメカニズムによると考えられています:
- 消化酵素耐性の向上: アセチル基が保護基として働き、消化管でのペプチド結合の加水分解を防ぐ
- 細胞膜透過性の向上: 脂溶性が増すことで、腸管上皮細胞や細胞膜を通過しやすくなる
- 細胞内での変換: 細胞内エステラーゼにより脱アセチル化され、活性型GSHとして利用される
肝臓の健康維持を助ける
グルタチオンは、肝臓での解毒機能の維持に重要な役割を果たしています。PMCS-アセチルL-グルタチオンは、肝細胞内のグルタチオン濃度を効率的に高めることで、酸化ストレスや有害物質による肝障害から保護を助ける可能性が研究されています。
2022年の動物実験では、S-アセチルL-グルタチオン(30mg/kg)を21日間経口投与した際、四塩化炭素(CCl₄)による肝障害が軽減され、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)やグルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)などの抗酸化酵素の活性が回復し、肝臓内グルタチオン濃度も正常レベルに回復しました。PubMedまた、炎症性サイトカインや肝障害マーカー(ALT、AST)も減少し、肝組織の損傷が軽減されました。
抗酸化作用を効率的に発揮
グルタチオンは、細胞内で活性酸素種(ROS)を除去し、酸化ストレスから細胞を保護する働きがあります。PMCS-アセチルL-グルタチオンは、高い吸収率により、体内でより効率的に抗酸化作用を発揮できる可能性があります。
解毒機能の維持を助ける
グルタチオンは、肝臓の第II相解毒反応(グルタチオン抱合)において中心的な役割を果たし、有害物質や薬物の代謝産物を水溶性にして体外への排出を助けます。PMCS-アセチルL-グルタチオンにより細胞内グルタチオン濃度が維持されることで、この解毒機能の維持を助ける可能性があります。
摂り方とタイミング
S-アセチルL-グルタチオンのサプリメントでは、一般的に100~300mg/日程度が使用されています。動物実験では体重1kgあたり30mgで効果が確認されていますが、ヒトでの推奨量は製品により異なります。
重要な点として、通常のグルタチオンよりも吸収率が高いため、より少ない用量でも十分な細胞内グルタチオン濃度が達成される可能性があります。そのため、通常のグルタチオンサプリメント(500~1,000mg以上が一般的)と比較して、S-アセチル化製品では少量で効果が期待できます。
摂取タイミングについては、空腹時の摂取が推奨される場合もありますが、研究では特定のタイミングが指定されていないものもあります。製品の推奨に従うことが重要です。
食品から摂るには
S-アセチルL-グルタチオンは、通常の食品には含まれていません。これは、アセチル化されたグルタチオンが工業的な合成により製造される形態であるためです。
ただし、通常のグルタチオン(GSH)は以下の食品に含まれています:
グルタチオンを含む食品
- アスパラガス: 野菜の中でも特にグルタチオン含有量が高い
- アボカド: 脂溶性抗酸化物質とともにグルタチオンを含む
- ほうれん草: 緑黄色野菜の代表的なグルタチオン源
- ブロッコリー: スルフォラファンとともにグルタチオンを含む
- トマト: 特に加熱調理により利用可能性が向上
- オレンジ: 柑橘類に含まれるビタミンCとともにグルタチオンを含む
- クルミ: ナッツ類の中でもグルタチオン含有量が高い
また、グルタチオンの合成には以下の前駆体アミノ酸が必要です:
- システイン: 卵、鶏肉、ヨーグルト、ニンニク
- グルタミン酸: 肉類、魚類、大豆製品
- グリシン: ゼラチン、肉類、魚類
これらの食品から摂取されるグルタチオンや前駆体アミノ酸は、体内でのグルタチオン合成を助けますが、経口摂取時の吸収率は限定的です。高いバイオアベイラビリティを求める場合は、S-アセチルL-グルタチオンのサプリメントが推奨されます。
栄養素どうしの関係と注意点
S-アセチルL-グルタチオンは一般的に安全性の高いサプリメントとされていますが、以下の点に注意が必要です。
アレルギー
グルタチオンはアミノ酸由来の成分ですが、システイン含有成分に対する過敏症がある方は、使用前に医療専門家に相談してください。
妊娠・授乳中
妊娠中や授乳中の安全性については、通常の食事からのグルタチオン摂取は問題ないとされていますが、高用量のサプリメント使用については十分なデータがありません。使用前に医療専門家に相談することが推奨されます。
薬剤との相互作用
グルタチオンは解毒代謝に関与するため、化学療法薬や一部の抗がん剤の効果に影響を与える可能性が理論的に考えられます。がん治療中の方は、使用前に必ず医療専門家に相談してください。
喘息
一部の研究では、吸入型グルタチオンが喘息症状を悪化させる可能性が報告されています。喘息がある方は、経口サプリメントであっても使用前に医療専門家に相談してください。
消化器症状
高用量摂取により、まれに消化器症状(吐き気、腹痛など)が報告されています。推奨量を守り、症状が現れた場合は摂取を中止してください。
硫黄臭
グルタチオンはシステインを含むため、製品によっては硫黄のような臭いがする場合があります。これは正常な特性であり、品質上の問題ではありません。
