ケルセチン・フィトソームとは
ケルセチンは、玉ねぎ、りんご、緑茶、ブロッコリーなどの植物性食品に広く含まれるフラボノイドの一種で、抗酸化作用を持つポリフェノール化合物です。多くの健康効果が報告されていますが、通常のケルセチンは水溶性が低く、経口摂取時の吸収率が非常に悪いという課題があります。
ケルセチン・フィトソーム(Quercetin Phytosome®)は、この吸収率の問題を解決するために開発された食品グレードのレシチン(リン脂質)ベースの製剤です。「フィトソーム(Phytosome)」とは、植物由来成分(フィト=phyto)とリン脂質の複合体(ソーム=some)を意味し、レシチンとケルセチンを結合させることで、水溶性と脂溶性の両方の環境での安定性を高め、腸管からの吸収を大幅に改善する技術です。
からだでの働きと科学的知見
ケルセチン・フィトソームの最大の特徴は、通常のケルセチンと比較して顕著に高い経口吸収率(バイオアベイラビリティ)です。2025年に発表されたシステマティックレビュー・メタアナリシスでは、31件のヒト介入研究を評価した結果、レシチンフィトソーム製剤がケルセチンアグリコンと比較して20.1倍のバイオアベイラビリティ増加を示すことが確認されました。PubMed
この改善は、以下のメカニズムによると考えられています。レシチンとの複合化により、胃液や腸液での溶解性が大幅に改善され、レシチンの脂溶性により腸管上皮細胞の脂質二重層を通過しやすくなり、腸内細菌による分解に対する安定性も向上します。
2019年のEuropean Journal of Drug Metabolism and Pharmacokinetics誌に掲載された無作為化クロスオーバー薬物動態試験では、健康成人12名を対象に、ケルセチン・フィトソームと通常のケルセチンの吸収性が比較されました。その結果、ケルセチン・フィトソームは通常のケルセチンと比較して最大20倍の血中ケルセチン濃度を達成し、最高血中濃度(Cmax)と曝露量(AUC)が統計的に有意に改善され(p<0.0001)、顕著な副作用は報告されませんでした。PubMed
2023年に発表された薬物動態パイロット研究では、健康成人10名を対象に、250mg、500mg、1000mgの用量でクロスオーバー試験が実施され、用量依存的な血中濃度上昇と食事管理下での安全性が確認されました。PMC
ケルセチンは強力な抗酸化物質として知られており、活性酸素種(ROS)を除去する働きがあります。ケルセチン・フィトソームは、高い吸収率により、体内でより効率的に抗酸化作用を発揮できる可能性があります。2025年のレビューでは、ケルセチンが血管内皮機能、炎症、心血管疾患、脂質代謝に及ぼす効果がまとめられており、血圧低下、コレステロール値の改善、内皮機能の向上との関連が報告されています。PubMed
ケルセチンは、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-αなど)の産生を抑制する作用やヒスタミンの放出を抑制する作用が報告されています。高い吸収率により、炎症調整やアレルギー症状の軽減に関与する可能性があります。
医療従事者120名を対象としたパイロット研究では、ケルセチン・フィトソーム250mgを1日2回、3ヶ月間摂取した群で、COVID-19症状の発症が抑制される傾向が観察されました(ケルセチン群1名 vs プラセボ群4名が発症)。PubMed 別の研究では、ケルセチン・フィトソームがCOVID-19管理の潜在的な候補として評価されており、優れた吸収性が臨床応用において重要な利点となることが指摘されています。PubMed
| 研究テーマ | エビデンス強度 | 補足 |
|---|---|---|
| バイオアベイラビリティ向上 | 高 | 20倍以上の改善を複数研究で確認 |
| 抗酸化作用 | 中 | 高い血中濃度により効果向上の可能性 |
| 心血管疾患への効果 | 中 | 血圧・脂質代謝への好影響を示唆 |
| 炎症・アレルギー調整 | 中 | 基礎研究で示唆、臨床研究は限定的 |
| COVID-19への応用 | 低 | パイロット研究段階、さらなる検証必要 |
摂り方とタイミング
ケルセチン・フィトソームのサプリメントでは、一般的に250~500mg/日程度が使用されています。臨床研究では250~500mg/日の範囲で効果が確認されています。重要な点として、通常のケルセチンよりも吸収率が最大20倍高いため、より少ない用量でも十分な血中濃度が達成される可能性があります。そのため、通常のケルセチンサプリメント(1,000mg以上が一般的)と比較して、フィトソーム化製品では少量で効果が期待できます。
摂取タイミングについては、食事と一緒に摂取することで吸収がさらに助けられる可能性がありますが、フィトソーム技術により空腹時でも吸収は良好とされています。
栄養素どうしの関係と注意点
ケルセチン・フィトソームは一般的に安全性の高いサプリメントとされていますが、薬剤との相互作用に注意が必要です。
| 組み合わせ・相互作用 | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| 抗凝固薬 | △ | 効果を増強する可能性、医療専門家に相談 |
| 免疫抑制剤 | △ | 血中濃度に影響の可能性、医療専門家に相談 |
| 抗生物質(フルオロキノロン系) | △ | 吸収が影響を受ける可能性 |
| CYP3A4基質薬 | △ | 代謝が影響を受ける可能性、医療専門家に相談 |
ケルセチンは、肝臓の薬物代謝酵素(特にCYP3A4、CYP2C9)に影響を与える可能性があります。抗凝固薬(ワルファリンなど)を服用している方は、ケルセチンが効果を増強する可能性があるため注意が必要です。免疫抑制剤(シクロスポリンなど)や抗生物質(フルオロキノロン系)を使用中の方も、相互作用の可能性について医療専門家に相談してください。
ケルセチンは軽度の抗血小板作用を持つ可能性があるため、出血傾向がある方や手術予定がある方は、使用前に医療専門家に相談してください。妊娠中や授乳中の安全性については、通常の食事からの摂取は問題ないとされていますが、高用量のサプリメント使用については十分なデータがありません。使用前に医療専門家に相談することが推奨されます。
腎機能が低下している方では、ケルセチンの排泄が遅延する可能性があるため、使用前に医療専門家に相談してください。大豆由来のレシチンが使用されている場合、大豆アレルギーの方は使用を避けてください。製品によっては、ひまわり由来のレシチンが使用されている場合もあります。高用量摂取により、まれに消化器症状(吐き気、腹痛など)が報告されています。推奨量を守り、症状が現れた場合は摂取を中止してください。
食品から摂るには
ケルセチン・フィトソームは、レシチンとケルセチンの工業的な複合化により製造される製剤であり、通常の食品には含まれていません。サプリメントとして摂取する必要があります。
ただし、ケルセチン自体は以下の食品に豊富に含まれています。玉ねぎ(特に赤玉ねぎ、皮にも多く含まれる)、りんご(皮に多く含まれる)、ブロッコリー、ケール、ブルーベリー、緑茶、そば(ルチンとしてケルセチン配糖体を含む)、アスパラガス(穂先に多い)などです。
これらの食品から摂取されるケルセチンは、主に配糖体(糖が結合した形)として存在し、吸収率は限定的です。高いバイオアベイラビリティを求める場合は、ケルセチン・フィトソームのサプリメントが推奨されます。
