ミトコンドリアと認知機能が気になる人に注目されるビタミン様物質です。 PQQ(ピロロキノリンキノン、pyrroloquinoline quinone)は、強力な抗酸化作用とミトコンドリア新生促進作用を持つビタミン様物質で、脳機能や細胞エネルギー代謝との関連で研究されています。 2024年に発表されたレビューでは、PQQが脳機能と生理学的プロセスに多様な関与を示すことが包括的にまとめられました。
- 主な働き:ミトコンドリア新生促進、認知機能との関連、神経保護作用、抗酸化作用
- 摂るタイミング:朝食時、1日あたり10〜20mg
- 相性:コエンザイムQ10、ビタミンE、αリポ酸
- 注意:妊娠中・授乳中の方は医師に相談
- 食品例:納豆、パセリ、ピーマン、キウイ
PQQとは
PQQ(ピロロキノリンキノン、pyrroloquinoline quinone)は、1979年にメタノール資化細菌から発見されたビタミン様物質です。ビタミンB群に似た構造を持ちますが、現時点では必須ビタミンとしては認められていません。
PQQは、強力な酸化還元作用(レドックス作用)を持ち、1分子のPQQが最大2万回の酸化還元サイクルを繰り返すことができるとされています。この性質により、ビタミンCやビタミンEをはるかに上回る抗酸化能力を発揮します。
PQQの最も注目される作用は、ミトコンドリアの新生(ミトコンドリアバイオジェネシス)を促進することです。PQQは、PGC-1α(peroxisome proliferator-activated receptor γ coactivator 1α)の発現を増加させ、新しいミトコンドリアの生成を誘導します。マウスでの研究では、PQQがミトコンドリア数を20〜30%増加させることが報告されています。
臨床研究では、1日あたり10〜20mgの摂取が一般的に用いられており、認知機能の維持、神経保護、エネルギー代謝との関連が評価されています。
からだでの働きと科学的知見
PQQは、ミトコンドリア新生、認知機能、神経保護作用との関連で広く研究されています。
脳機能と生理学的プロセスとの関連
2024年5月に発表されたレビュー(Journal of Medical Investigation誌)では、PQQが脳機能と生理学的プロセスに及ぼす影響が包括的にまとめられました。PQQは、レドックス特性を持ち、抗酸化作用、神経保護作用、ミトコンドリア新生作用を発揮し、基準摂取量は20mg/日とされています。PubMed
認知機能との関連
2023年に発表されたランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、健康な若年者および高齢者を対象に、PQQ二ナトリウム塩の摂取が脳機能に与える影響が評価されました。PQQ摂取により、記憶、注意、判断力が改善され、層別解析では若年者(20〜40歳)において認知柔軟性と実行速度が8週間時点で改善されました。PubMed
2024年に発表されたランダム化対照試験では、軽度認知障害を持つ高齢者を対象に、6週間のジヒドロゲン-ピロロキノリンキノン補充が評価されました。その結果、ミトコンドリアバイオマーカー、脳代謝、認知機能の改善が観察され、年齢関連の軽度認知低下における栄養介入としての可能性が示されました。PubMed
複数の二重盲検プラセボ対照試験では、全般的記憶、言語記憶、作業記憶、注意力の改善が報告されています。
ミトコンドリア新生のメカニズム
PQQは、以下のメカニズムでミトコンドリア新生を促進します:
- CREBとPGC-1αの活性化:PQQは、cAMP応答エレメント結合タンパク質(CREB)のリン酸化を促進し、PGC-1αの発現を増加させます。
- ミトコンドリア関連遺伝子の発現増加:PGC-1αは、ミトコンドリア新生に関与する遺伝子の転写を促進します。
- ミトコンドリア数の増加:マウスでの研究では、PQQがミトコンドリア数を20〜30%増加させることが確認されています。
2024年の研究では、PQQがヒト間葉系幹細胞由来のミトコンドリアを促進し、SIRT1とPGC-1αを介したミトコンドリア新生を増加させることが確認されました。In vitroおよびin vivo実験において、PQQがミトコンドリア機能を促進し、酸化ストレスを抑制しながら相乗的にミトコンドリア機能を回復させることが示されています。PubMed
神経保護作用
2025年のレビュー(Molecular Biology Reports誌)では、PQQが神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病など)において、代謝をターゲットとした神経保護物質としての可能性が示されています。PubMed
パーキンソン病モデルでは、PQQがミトコンドリア機能障害を予防し、ミトコンドリアの分裂と融合を調節することで、神経保護作用を発揮することが報告されています。
齧歯類の脳卒中モデルでは、PQQが抗酸化特性を通じて神経細胞死を予防することが確認されています。
抗酸化作用・抗炎症作用
PQQは、活性酸素種(ROS)を除去し、酸化ストレスを軽減します。また、炎症性サイトカインの産生を抑制し、抗炎症作用を発揮します。
2024年に発表されたナラティブレビューでは、肥満における低グレード炎症、酸化ストレス、ミトコンドリア機能障害に対するPQQの役割が評価されました。PQQは、抗炎症作用と抗酸化作用に基づき、脂肪組織代謝の機能不全に対処する可能性が示されています。PubMed
PQQは、Keap1/Nrf2シグナル伝達経路を調節し、抗酸化酵素の発現を増加させることで、細胞の酸化ストレス防御機構を強化します。
| 研究テーマ | エビデンス強度 | 補足 |
|---|---|---|
| 脳機能との関連 | 中 | 2024年レビューで包括的に確認PubMed |
| 認知機能改善 | 中 | RCTで記憶・注意・判断力の改善PubMed |
| ミトコンドリア新生 | 高 | PGC-1α活性化、ミトコンドリア数20-30%増加 |
| 神経保護作用 | 中 | パーキンソン病・脳卒中モデルで確認 |
摂り方とタイミング
PQQの推奨量は、臨床研究で使用された量に基づき、1日あたり10〜20mg程度とされています。基準摂取量は20mg/日とされています。
朝食時に摂取することが一般的にすすめられます。PQQはミトコンドリア機能を活性化し、細胞エネルギー産生を促進するため、朝の摂取が日中の活動をサポートする可能性があります。
PQQは、コエンザイムQ10(CoQ10)との併用により、相乗効果が期待できます。PQQとCoQ10を併用した臨床試験では、認知機能の改善効果が増強されたと報告されています。
臨床研究では4〜12週間程度の継続摂取で評価されており、即効性を期待するよりも、継続的な使用で緩やかな変化を見守る姿勢が適切です。
栄養素どうしの関係と注意点
PQQは他の栄養素との組み合わせで相乗効果が期待できます。
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| コエンザイムQ10 | ◎ | ミトコンドリア機能との相乗効果 |
| ビタミンE | ○ | 抗酸化作用との相乗効果 |
| αリポ酸 | ○ | ミトコンドリア保護との関連 |
| レスベラトロール | ○ | PGC-1α活性化との相乗効果 |
注意点として、PQQは一般的には安全性が高いとされていますが、以下の点に注意が必要です:
- 消化器症状:まれに胃腸の不快感、下痢、吐き気が報告されています。
- 頭痛・眠気:一部の方で頭痛や眠気が報告されています。
- 妊娠中・授乳中:安全性に関する十分なデータがないため、妊娠中・授乳中の方は医師に相談することが推奨されます。
- 医薬品との相互作用:抗凝固薬やNSAIDsとの相互作用が懸念されるため、これらの薬を服用している方は医師に相談することが推奨されます。
食品から摂るには
PQQは、微量ながら食品にも含まれています。特に発酵食品や野菜に多く含まれます。
| 食品 | PQQ含有量(100gあたり) |
|---|---|
| 納豆 | 約0.06〜0.08mg |
| パセリ | 約0.03〜0.04mg |
| ピーマン | 約0.02〜0.03mg |
| キウイ | 約0.02〜0.03mg |
| パパイヤ | 約0.01〜0.02mg |
| 豆腐 | 約0.02〜0.03mg |
1日の推奨量(20mg)を食品から摂取するには:
- 納豆:約25〜33kg
- パセリ:約50〜67kg
食品からの摂取では、臨床研究で使用されている量(10〜20mg)を摂取することは現実的ではありません。日本人の食事からのPQQ摂取量は、1日あたり0.1〜0.3mg程度と推定されています。
食品からの摂取のポイント:
- 納豆は、PQQのほかビタミンK2、イソフラボン、食物繊維も豊富
- パセリ、ピーマンなどの野菜を積極的に摂取
- 発酵食品(味噌、醤油など)にも微量含まれる
PQQを意識的に摂取したい場合は、サプリメントを利用することが一般的です。サプリメントとして摂取する場合は、PQQ二ナトリウム塩(PQQ disodium salt)の形態で提供されている製品を選びます。信頼できるメーカーの製品を選び、製品の表示や推奨量に従うことが重要です。
