パパインとは
パパインは、パパイヤ(Carica papaya)の果実および葉に含まれるシステインプロテアーゼ(タンパク質分解酵素)です。特に未熟な青いパパイヤに高濃度で含まれており、ラテックス(乳液)から抽出されます。
パパインは、活性部位にシステイン残基を持ち、タンパク質のペプチド結合を加水分解します。最適pHは中性付近(pH 6〜7)であり、胃酸(pH 1.5〜3.5)でも一定の活性を維持するため、消化酵素サプリメントとして広く使用されています。
近年の研究では、パパインの消化促進作用に加えて、抗炎症作用、抗酸化作用、腸内細菌叢調整作用が報告されており、腸炎、アトピー性皮膚炎、肥満などへの応用が研究されています。
からだでの働きと科学的知見
パパインは、タンパク質の消化促進、腸管・皮膚の抗炎症作用、脂質代謝の改善に関与します。
タンパク質の消化:
パパインは、タンパク質をペプチドおよびアミノ酸に分解し、消化・吸収を促進します。動物実験では、パパイン投与によりタンパク質消化能力が向上し、腸内細菌叢の改善(Proteobacteriaの減少、Akkermansia muciniphilaの増加)が観察されました。これにより、栄養吸収が改善され、消化不良症状が軽減されます。2025年の研究では、パパインによる酵素加水分解により、大豆・緑豆タンパク質の消化性が改善され、機能性ペプチドの生成が促進されることが報告されています。PubMed また、別の研究では、パパインを用いた抽出により、モリンガ種子タンパク質の消化性が大幅に向上することが示されています。PubMed さらに、ヤギミルクカゼインをパパインで加水分解することにより、睡眠促進作用を持つペプチドが生成されることも報告されています。PubMed
腸管の抗炎症作用:
2023年の動物実験では、インドメタシン誘発性腸炎ラットに対し、パパインとブロメラインを投与した結果、腸管損傷の軽減、酸化ストレスマーカーの減少(MDA)、抗酸化酵素の増加(SOD、カタラーゼ)が確認されました。PMC パパインは、NF-κBシグナル経路を抑制し、炎症性サイトカイン(TNF-α、IL-6、IL-1β)の産生を減少させます。
皮膚炎症の改善:
2024年の研究では、アトピー性皮膚炎モデルマウスに対し、パパイン投与により表皮肥厚の軽減、肥満細胞浸潤の減少、IgE産生の抑制、炎症性サイトカインの減少が観察されました。PMC パパインは、MAPKs(ERK、JNK、p38)およびSTATシグナル経路を抑制し、皮膚炎症を改善します。
脂質代謝の改善:
高脂肪食誘発性肥満マウスにパパインを投与した研究では、体重増加の抑制、脂肪組織での脂質蓄積の減少、血清脂質プロファイルの改善が報告されています。パパインは、**AMPK(AMP-activated protein kinase)**経路を活性化し、脂質代謝を促進します。
システインプロテアーゼによるタンパク質分解:
パパインの活性部位には、システイン25とヒスチジン159からなる触媒ダイアド(catalytic diad)があります。この構造により、タンパク質のペプチド結合を以下の機序で切断します:
- **システイン残基のチオール基(-SH)**が求核攻撃を行う
- ペプチド結合のカルボニル炭素と共有結合を形成(テトラヘドラル中間体)
- ペプチド結合が切断され、2つのペプチド断片が生成
パパインを含むpapain superfamilyのシステインプロテアーゼは、骨代謝、免疫細胞機能、炎症調節において重要な役割を果たしています。PubMed
NF-κB経路抑制による抗炎症作用:
パパインは、**NF-κB(nuclear factor-kappa B)**の核内移行を阻害し、炎症性サイトカイン遺伝子(TNF-α、IL-6、IL-1β、IL-8)の転写を抑制します。また、COX-2(シクロオキシゲナーゼ-2)の発現も抑制し、**プロスタグランジンE2(PGE2)**の産生を減少させます。
MAPKsおよびSTAT経路の抑制:
2024年の研究では、パパインが以下のシグナル経路を抑制することが示されました:
- MAPK経路: ERK、JNK、p38のリン酸化を抑制 → 炎症性遺伝子発現を減少
- STAT経路: STAT1、STAT3の活性化を抑制 → Th2サイトカイン(IL-4、IL-13)産生を減少
腸内細菌叢の調整:
パパイン投与により、以下の腸内細菌叢の変化が観察されています:
- Proteobacteria(有害菌)の減少
- Akkermansia muciniphila(粘液層維持菌)の増加
- 短鎖脂肪酸産生菌の増加
これにより、腸管バリア機能が強化され、**LPS(リポ多糖)**の血中流入が抑制されます。
摂り方とタイミング
パパインは消化サポート目的では食事時100〜300mg、抗炎症目的では1日300〜500mgを空腹時に摂取します。消化促進は食事時、抗炎症作用は空腹時が効果的です。
摂取のコツ:
- 腸溶性コーティングの選択: 胃酸で一部が失活するため、腸溶性コーティング製品を選ぶことで酵素活性が維持されます
- 段階的増量: 初めて使用する場合は、低用量(100mg)から開始し、症状に応じて増量してください
栄養素どうしの関係と注意点
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| ブロメライン | ○ | 相乗効果が期待できる |
| ビタミンC | ○ | 抗酸化作用を増強する可能性 |
| 抗凝固薬 | △ | タンパク質分解作用があるため医師に相談 |
パパインは適切な用量(1日100〜500mg程度)であれば一般的に安全性が高いとされています。
報告されている軽微な副作用:
- 軽度の消化器症状(稀)
- アレルギー反応(ラテックスアレルギーとの交差反応、稀)
注意が必要なケース:
- ラテックスアレルギー: パパインはラテックスタンパク質と交差反応するため、ラテックスアレルギーの方は使用を避けてください。- パパイヤアレルギー: パパイヤアレルギーの方は使用を避けてください
- 抗凝固薬使用中: パパインがタンパク質分解作用を持つため、抗凝固薬(ワルファリン等)との併用は医師に相談してください
- 妊娠中: 未熟パパイヤには子宮収縮作用があるとされるため、妊娠中は使用を避けてください
- 手術前: タンパク質分解作用があるため、手術の2週間前には使用を中止してください
食品から摂るには
パパインは未熟なパパイヤの果実・葉から抽出される酵素であり、以下の形態で利用されます:
- 腸溶性カプセル: 酵素活性が維持される製品(100〜500mg)
- 錠剤: 標準化されたパパイン酵素製品
- 粉末: 肉軟化剤としても利用される形態
製品選択時は、腸溶性コーティングされた製品を選ぶことで、酵素活性が最大限に維持されます。熟したパパイヤよりも未熟な青いパパイヤの方がパパイン含有量が10〜100倍高いとされています。
