NAD+と細胞エネルギーが気になる人に注目されるビタミンB3誘導体です。 ニコチンアミドリボシド(NR、nicotinamide riboside)は、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の前駆体で、細胞エネルギー代謝、ミトコンドリア機能、細胞老化との関連で研究されています。 2018年に発表された臨床試験では、健康な中高年者において、NR摂取がNAD+レベルを安全に増加させることが報告されました。
- 主な働き:NAD+レベル増加、ミトコンドリア機能との関連、細胞エネルギー代謝サポート
- 摂るタイミング:朝食時、1日あたり250〜500mg
- 相性:レスベラトロール、プテロスチルベン、PQQ
- 注意:妊娠中・授乳中の方は医師に相談
- 食品例:牛乳、ビール酵母(微量)
ニコチンアミドリボシドとは
ニコチンアミドリボシド(NR、nicotinamide riboside)は、ビタミンB3(ナイアシン)の誘導体で、NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)の前駆体として機能します。NAD+は、細胞のエネルギー代謝、DNA修復、遺伝子発現の制御に不可欠な補酵素です。
NAD+レベルは、加齢とともに低下することが知られており、この低下が加齢に伴う代謝低下、ミトコンドリア機能低下、細胞老化との関連が示唆されています。NRは、NAD+の前駆体として、体内でNAD+レベルを効率的に増加させることができます。
NRは、体内でニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)に変換され、さらにNAD+に合成されます。NRは、経口摂取後に効率的に吸収され、血中NAD+レベルを増加させることが、マウスおよびヒトでの研究で確認されています。
臨床研究では、1日あたり250〜1,000mgの摂取が用いられており、NAD+レベルの増加、ミトコンドリア機能の維持、認知機能の維持との関連が評価されています。
からだでの働きと科学的知見
ニコチンアミドリボシドは、NAD+レベル増加、ミトコンドリア機能、細胞老化との関連で研究されています。
NAD+レベルの増加
2018年に発表されたランダム化二重盲検クロスオーバー試験では、健康な中高年者(平均年齢52歳)12名を対象に、NR 250mg、500mg、1,000mg/日を8週間摂取させました。NR摂取により、血中NAD+レベルが用量依存的に増加し、1,000mg/日では約60%の増加が確認されました。NRは忍容性が良好で、重篤な有害事象は報告されませんでした。PubMed
軽度認知障害との関連
2023年に発表されたランダム化プラセボ対照試験では、軽度認知障害のある高齢者を対象に、NR摂取が脳機能に与える影響が評価されました。NRは、齧歯類の神経変性モデルで脳機能を改善することが示されており、ヒトでの安全性と認知機能への関与が評価されています。PubMed
末梢動脈疾患(PAD)との関連
2024年に発表されたランダム化試験(NICE試験)では、末梢動脈疾患患者を対象に、NRおよびレスベラトロールの併用が歩行能力に与える影響が評価されました。PubMed NRは、6分間歩行距離を有意に改善し、NAD+増加がサーチュイン1(SIRT1)発現を増加させ、骨格筋の健康、ミトコンドリア活性、一酸化窒素を介した内皮機能を改善することが報告されています。
2025年に発表されたパイロット試験では、末梢動脈疾患の高齢患者を対象に、NRの4週間摂取が血管健康と認知機能に与える影響が評価されました。NR摂取により、血管機能の改善と認知機能の維持が観察され、NAD+レベルの増加が関与することが示唆されています。PubMed
ウェルナー症候群(早老症)での臨床試験
2025年8月に発表された世界初のウェルナー症候群患者を対象とした二重盲検臨床試験では、NR 1,000mg/日を26週間摂取させました。PubMed NRは、NAD+レベルを安全に増加させ、心血管系の健康維持、皮膚潰瘍の軽減、腎機能の保護に関与することが報告されました。また、慢性炎症、代謝疾患(肝脂肪蓄積)、高齢者の最大筋力と疲労の改善、炎症性サイトカインの減少が確認されました。
高血圧と運動との併用効果
2025年に発表されたパイロットランダム化臨床試験では、中高年の高血圧患者を対象に、NRと運動を併用した効果が評価されました。NRの摂取と運動の併用により、血圧の改善、血管機能の向上、NAD+レベルの増加が観察され、心血管系の健康維持に関与する可能性が示唆されています。PubMed
ミトコンドリア機能との関連
NAD+は、核とミトコンドリアの化学的連絡を維持しており、この連絡が損なわれると、ミトコンドリアの機能低下が起こり、細胞老化の重要な要因となります。NRは、高齢者の骨格筋NAD+代謝産物を増加させ、転写および抗炎症シグネチャーを誘導することが報告されています。
NRは、正常なマイトファジー(損傷したミトコンドリアの除去)を回復させ、NAD+代謝プロファイルを改善し、脂質代謝を増強し、ミトコンドリアの酸化ストレスを軽減し、ミトコンドリアの質を改善することが、細胞実験で確認されています。2024年のレビューでは、NRなどのNAD+エンハンサーが心腎軸(心臓と腎臓の相互作用)の治療薬として有望であることが報告されています。PubMed
サーチュイン活性化との関連
NAD+は、サーチュイン(SIRT1〜SIRT7)の補酵素として機能します。サーチュインは、遺伝子発現の制御、DNA修復、細胞老化の調節に関与する酵素群です。NRによるNAD+増加は、サーチュイン活性を増加させ、抗加齢作用との関連が期待されています。
| 研究テーマ | エビデンス強度 | 補足 |
|---|---|---|
| NAD+増加 | 高 | 健康中高年者12名で60%増加確認PubMed |
| 認知機能 | 低〜中 | 軽度認知障害での試験実施PubMed |
| 末梢動脈疾患 | 中 | 6分間歩行距離改善、SIRT1活性化 |
| ウェルナー症候群 | 中 | 2025年世界初試験、心血管・腎機能改善 |
摂り方とタイミング
ニコチンアミドリボシドの推奨量は、臨床研究で使用された量に基づき、1日あたり250〜500mg程度とされています。一部の研究では1,000mg/日も使用されています。
朝食時に摂取することが一般的にすすめられます。NAD+は、細胞のエネルギー代謝に関与するため、朝の摂取が日中の活動をサポートする可能性があります。
NRは、レスベラトロールやプテロスチルベンなどのサーチュイン活性化物質と併用することで、相乗効果が期待できます。臨床試験では、NRとレスベラトロールの併用により、効果が増強されたと報告されています。
臨床研究では8〜26週間程度の継続摂取で評価されており、即効性を期待するよりも、継続的な使用で緩やかな変化を見守る姿勢が適切です。
栄養素どうしの関係と注意点
ニコチンアミドリボシドは他の栄養素との組み合わせで相乗効果が期待できます。
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| レスベラトロール | ◎ | サーチュイン活性化との相乗効果 |
| プテロスチルベン | ○ | レスベラトロールの類似体、相乗効果 |
| PQQ | ○ | ミトコンドリア新生との相乗効果 |
| コエンザイムQ10 | ○ | ミトコンドリア機能との相乗効果 |
注意点として、NRは一般的には安全性が高いとされていますが、以下の点に注意が必要です:
- 消化器症状:まれに胃腸の不快感、下痢、吐き気が報告されています。
- 頭痛・めまい:一部の方で頭痛やめまいが報告されています。
- 妊娠中・授乳中:安全性に関する十分なデータがないため、妊娠中・授乳中の方は医師に相談することが推奨されます。
- 医薬品との相互作用:現時点で重大な相互作用は報告されていませんが、薬を服用している方は医師に相談することが推奨されます。
- ニコチンアミドとの違い:NRとニコチンアミド(ナイアシンアミド)は別の物質です。ニコチンアミドは高用量で副作用(肝機能への影響)が懸念されますが、NRは比較的安全性が高いとされています。
食品から摂るには
ニコチンアミドリボシドは、食品には微量しか含まれていません。主な食品源は、牛乳とビール酵母です。
| 食品 | NR含有量(推定) |
|---|---|
| 牛乳 | 微量(数μg/L) |
| ビール酵母 | 微量 |
食品からの摂取では、臨床研究で使用されている量(250〜500mg)を摂取することは現実的ではありません。通常の食事からのNR摂取量は、1日あたり数μg程度と極めて少量です。
ビタミンB3(ナイアシン)を多く含む食品:
NRはビタミンB3の誘導体ですが、ナイアシンやニコチンアミドとは別の物質です。ただし、ナイアシンもNAD+の前駆体として機能します。
- 鶏むね肉
- まぐろ
- かつお
- 牛レバー
- ピーナッツ
- きのこ類
NAD+を維持するための食事のポイント:
- ナイアシン、トリプトファン(ナイアシンの前駆体)を含む食品を摂取
- バランスの取れた食事を基本とする
- 過度なアルコール摂取を避ける(NAD+を消費するため)
NRを意識的に摂取したい場合は、サプリメントを利用することが一般的です。サプリメントとして摂取する場合は、ニコチンアミドリボシドクロライド(NR-Cl)またはニコチンアミドリボシド酒石酸塩の形態で提供されている製品を選びます。信頼できるメーカーの製品を選び、製品の表示や推奨量に従うことが重要です。
