血流と血栓予防が気になる人に注目される日本伝統食品由来の酵素です。 ナットウキナーゼ(nattokinase)は、納豆から発見された線溶酵素で、フィブリン分解活性(線溶作用)との関連で広く研究されています。 2021年に発表されたランダム化プラセボ対照試験(NAPS試験)では、265名の中高年者を対象に、ナットウキナーゼ2,000 FU/日の摂取が動脈硬化の進行抑制に関与する可能性が報告されています。
- 主な働き:線溶作用、血流サポート、血圧との関連、凝固因子との関連
- 摂るタイミング:夕食時、1日あたり2,000〜4,000 FU
- 相性:ビタミンK2(納豆に含まれる)
- 注意:抗凝固薬との併用は禁止、出血リスク
- 食品例:納豆、納豆菌培養エキス
ナットウキナーゼとは
ナットウキナーゼ(nattokinase)は、日本の伝統的発酵食品である納豆から1987年に発見された酵素です。納豆菌(Bacillus subtilis var. natto)が大豆を発酵させる過程で産生される、分子量約28,000のセリンプロテアーゼです。
ナットウキナーゼは、血栓の主成分であるフィブリンを直接分解する線溶作用を持つことが特徴です。この線溶作用は、体内の血栓溶解システムを活性化させる組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)と類似していますが、ナットウキナーゼは直接的にフィブリンを分解する点で異なります。
サプリメントとしては、フィブリン分解単位(FU: Fibrinolytic Unit)で活性が表示されます。臨床研究では、1日あたり2,000〜4,000 FUの摂取が用いられており、血流サポート、血圧の維持、心血管系の健康維持との関連が評価されています。
からだでの働きと科学的知見
ナットウキナーゼは、線溶作用、血流サポート、血圧との関連、凝固因子の調整で研究されています。
動脈硬化進行抑制との関連
2021年に発表されたNAPS(Nattokinase Atherothrombotic Prevention Study)試験では、265名の心血管疾患のない中高年者(中央値65.3歳)を対象に、ナットウキナーゼ2,000 FU/日またはプラセボを摂取させる二重盲検ランダム化比較試験が実施されました。この試験では、動脈硬化の進行抑制に関与する可能性が示されました。PubMed
線溶作用のメカニズム
2024年10月に発表されたシステマティックレビューでは、ナットウキナーゼの線溶作用、抗血栓作用、抗炎症作用、抗酸化作用が包括的にまとめられました。ナットウキナーゼは、以下の複数のメカニズムで線溶作用を発揮します:PubMed
- 直接的フィブリン分解:フィブリンおよびプラスミン基質を直接加水分解します。
- 内因性線溶系の活性化:プロウロキナーゼをウロキナーゼに変換し、組織プラスミノーゲンアクチベーター(tPA)の産生を増加させます。
- 線溶阻害因子の分解:プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-1(PAI-1)を分解します。
2015年に発表された臨床試験では、健康な若年男性12名を対象に、単回投与後の線溶活性が評価されました。ナットウキナーゼ摂取により、D-ダイマーとフィブリン/フィブリノーゲン分解産物が増加し、アンチトロンビンレベルが増加することが確認されました。線溶効果は8時間以上持続しました。
凝固因子との関連
2009年に発表された臨床試験では、健康群(26名)、心血管リスク群(14名)、透析群(5名)の合計45名を対象に、ナットウキナーゼ2,000 FU/日を2ヶ月間摂取させました。健康群では、フィブリノーゲンが9%減少、第VII因子が14%減少、第VIII因子が17%減少したと報告されています。PubMed
血圧との関連
複数のランダム化比較試験を統合したメタアナリシスでは、ナットウキナーゼ摂取により収縮期血圧が平均3.45 mmHg低下、拡張期血圧が平均2.32 mmHg低下することが報告されています。
北米で実施されたランダム化二重盲検プラセボ対照多施設臨床試験では、ナットウキナーゼ摂取が血圧低下およびフォンウィルブランド因子(心血管リスクマーカー)の低下に関与することが報告されています。
薬物動態
薬物動態研究では、ナットウキナーゼ摂取後、血中濃度が約13.3時間でピークに達し、摂取後2〜24時間で統計的に有意な増加が検出されることが確認されました。これは、ナットウキナーゼが経口摂取後にヒトの血中で直接測定可能であることを示す初めての証拠です。
| 研究テーマ | エビデンス強度 | 補足 |
|---|---|---|
| 動脈硬化進行抑制 | 中 | NAPS試験(265名)で進行抑制を示唆PubMed |
| 線溶作用 | 高 | 複数の研究で直接的フィブリン分解を確認PubMed |
| 凝固因子減少 | 中 | フィブリノーゲン9%、第VII因子14%減少PubMed |
| 血圧低下 | 中 | メタアナリシスで収縮期血圧3.45 mmHg低下 |
摂り方とタイミング
ナットウキナーゼの推奨量は、臨床研究で使用された量に基づき、1日あたり2,000〜4,000 FU(フィブリン分解単位)程度とされています。製品によってFU表示が異なるため、製品の表示に従うことが重要です。
夕食時または就寝前に摂取することが一般的にすすめられます。血栓形成は夜間から早朝にかけて多く発生するため、夕方から夜間の摂取が適しているとされています。
ナットウキナーゼは、熱に弱い酵素であるため、納豆として摂取する場合は、加熱せずに食べることが推奨されます。納豆1パック(約50g)には、約1,000〜1,500 FUのナットウキナーゼが含まれているとされています。
臨床研究では2〜3ヶ月程度の継続摂取で評価されており、即効性を期待するよりも、継続的な使用で緩やかな変化を見守る姿勢が適切です。
栄養素どうしの関係と注意点
ナットウキナーゼは他の栄養素や医薬品との相互作用に特に注意が必要です。
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| ビタミンK2 | ○ | 納豆に含まれる、骨の健康維持との関連 |
| 抗凝固薬(ワルファリン) | × | 併用禁止、出血リスク増大 |
| 抗血小板薬(アスピリン) | × | 併用注意、医師に相談必須 |
| EPA・DHA | △ | 出血リスク、医師に相談推奨 |
注意点として、ナットウキナーゼは強力な線溶作用を持つため、以下の方は摂取を避けることが推奨されます:
- 抗凝固薬(ワルファリン、ヘパリンなど)を服用している方:出血リスクが著しく増大するため、併用は禁止です。
- 抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレルなど)を服用している方:出血リスクが増大するため、医師に相談が必須です。
- 手術予定がある方:手術の2週間前から摂取を中止することが推奨されます。
- 出血性疾患のある方:脳出血、消化管出血などの既往歴がある方は摂取を避けてください。
- 妊娠中・授乳中の方:安全性に関する十分なデータがないため、摂取を避けることが推奨されます。
また、納豆にはビタミンK2が豊富に含まれているため、ワルファリン服用中の方は納豆の摂取も避ける必要があります。ナットウキナーゼサプリメントの場合、ビタミンK2を除去した製品もありますが、抗凝固薬との併用は依然として禁止です。
食品から摂るには
ナットウキナーゼは、以下の食品に含まれています。
| 食品 | ナットウキナーゼ含有量(目安) |
|---|---|
| 納豆1パック(50g) | 約1,000〜1,500 FU |
| 納豆菌培養エキス(サプリメント) | 2,000〜4,000 FU/日 |
1日の推奨量(2,000〜4,000 FU)を食品から摂取するには:
- 納豆:1日2〜4パック
納豆は、日本の伝統的な発酵食品で、ナットウキナーゼのほか、ビタミンK2、大豆イソフラボン、食物繊維、たんぱく質などの栄養素を豊富に含んでいます。
納豆の摂取ポイント:
- ナットウキナーゼは熱に弱いため、加熱せずに食べる
- よくかき混ぜることで、納豆菌の活性が高まる
- 夕食時または就寝前に食べることが推奨される
サプリメントとして摂取する場合は、以下の点に注意してください:
- ナットウキナーゼ活性(FU)が明示されている製品を選ぶ
- ビタミンK2を除去した製品かどうかを確認(抗凝固薬服用中の方向け、ただし併用は禁止)
- 第三者機関による品質認証がある製品を優先
信頼できるメーカーの製品を選び、製品の表示や推奨量に従うことが重要です。
