ミネラル

モリブデン|代謝酵素を支える必須ミネラル

タンパク質の代謝や有害物質の分解を担うモリブデンについて、日本人の食事摂取基準に基づき、働き・摂り方・食品例を一次情報をもとにやさしく解説します。

※ 主な作用: 酵素補因子

豆類とレンズ豆
Photo by Calum Lewis
摂取基準値
RDA(推奨量)男性 30µg / 女性 25µg
AI(目安量)mcg
UL(耐容上限量)男性 600µg / 女性 500µg

推奨量(18-64歳:男性30µg、女性25µg)・UL(男性600µg、女性500µg)

豆類や穀物を日常的に食べている人なら、意識せずとも十分量を摂れている微量ミネラルです。 モリブデンは体内で4つの酵素を助け、タンパク質の代謝や有害物質の分解を支えます。 通常の食事で不足することはほとんどなく、サプリメントよりも食品からの摂取が安心です。

  • 主な働き:酵素補因子として代謝反応を助ける
  • 摂るタイミング:食事と一緒に、特別な時間指定は不要
  • 注意:通常の食事で十分量を摂取できるため、サプリメントは原則不要
  • 食品例:豆類、全粒穀物、ナッツ、乳製品、レバー
  • 推奨量:成人男性30µg/日、成人女性25µg/日(日本)

モリブデンとは

モリブデン(Mo)は体内で酵素の働きを助ける必須微量ミネラルで、タンパク質やDNAの代謝に関与します。体内には約9mgが存在し、肝臓・腎臓・骨に分布しています。NIH ODS 日常の食事で豆類や穀物を食べていれば、意識しなくても推奨量を満たせる栄養素です。日本人の平均摂取量は225µg/日で、推奨量の約7〜9倍に達しています。厚生労働省

からだでの働きと科学的知見

モリブデンは4つの酵素(キサンチン酸化酵素、亜硫酸酸化酵素、アルデヒド酸化酵素、ミトコンドリアアミドキシム還元酵素)の補因子として機能し、代謝反応を円滑に進める役割を担います。PubMed

キサンチン酸化酵素は、プリン体の最終代謝産物である尿酸の生成に関与します。この酵素がなければ、体内でプリン体を適切に処理できません。NCBI Bookshelf

亜硫酸酸化酵素は、食品添加物として使われる亜硫酸塩や、含硫アミノ酸(システイン、メチオニン)の代謝で生じる亜硫酸を無毒化します。この酵素が働くことで、体内に蓄積すると有害な亜硫酸が速やかに硫酸塩に変換されます。NIH ODS

アルデヒド酸化酵素は、アルコールの代謝やビタミンA(レチノール)からレチノイン酸への変換など、複数の代謝経路で働きます。日々の食事で摂った栄養素が体内で適切に利用されるために欠かせない酵素です。

ミトコンドリアアミドキシム還元酵素は、比較的最近発見された酵素で、医薬品や内因性物質の代謝に関わると考えられています。

これら4つの酵素すべてにモリブデン補因子が必要で、どれか1つでも機能しなくなると深刻な代謝障害が起こります。遺伝性のモリブデン補因子欠損症では、これらの酵素がすべて働かなくなり、重篤な神経症状が現れます。ただし、この疾患は極めて稀で、通常の食事による欠乏症は報告されていません。

研究テーマ エビデンス強度 補足
酵素補因子機能 4つの酵素で確認された基本的役割
尿酸代謝への関与 キサンチン酸化酵素を介した報告
亜硫酸塩の無毒化 亜硫酸酸化酵素の働きで示唆

摂り方とタイミング

日本人の食事摂取基準(2020年版)では、成人男性で30µg/日、成人女性で25µg/日が推奨量とされています。厚生労働省 豆類や穀物を含む通常の食事で推奨量は容易に満たせるため、特別な時間帯を意識する必要はありません。食事と一緒に自然に摂取できます。 サプリメントでの追加摂取は原則不要で、マルチミネラル製品に含まれる程度で十分です。

栄養素どうしの関係と注意点

モリブデンと他のミネラルの間には、摂取バランスに注意が必要な組み合わせがあります。

組み合わせ 推奨度 コメント
モリブデン×銅 高用量のモリブデンは銅の吸収を妨げる可能性NIH ODS
モリブデン×硫黄 硫黄化合物が多い食事ではモリブデンの排泄が増える可能性
通常の食事 食品からの摂取では相互作用の心配はほとんどない

通常の食事で推奨量を大きく超えることは稀ですが、耐容上限量(成人男性600µg/日、成人女性500µg/日)を超える高用量のサプリメント摂取は避けましょう。

食品から摂るには

豆類(黒豆、大豆、レンズ豆など)、全粒穀物、ナッツ類、乳製品、レバーに多く含まれます。野菜では葉物野菜にも含まれています。NIH ODS

主な食品例と含有量の目安

  • 豆類:大豆製品(納豆、豆腐)、黒豆、レンズ豆、インゲン豆
  • 穀類:玄米、全粒粉パン、オートミール
  • ナッツ類:アーモンド、カシューナッツ
  • 野菜:ほうれん草、ブロッコリー、カリフラワー
  • 動物性食品:レバー、乳製品(牛乳、ヨーグルト、チーズ)

土壌中のモリブデン含有量によって食品中の濃度が変わるため、地域によって差がありますが、日本の一般的な食事では不足の心配はありません。食品の加工や調理による損失も少なく、通常の調理法で安定して摂取できます。

朝の納豆、昼の玄米ご飯、夜の豆腐など、日常的に豆類や穀物を取り入れることで、自然に推奨量を満たせます。特別な食品を追加する必要はなく、バランスの取れた食事を心がければ十分です。

よくある質問

Q. モリブデンのサプリメントは必要ですか?

通常の食事で十分量を摂取できるため、単独のモリブデンサプリメントは原則不要です。マルチミネラル製品に含まれる程度で問題ありません。

Q. 摂りすぎによる健康への影響はありますか?

通常の食事からの摂取では過剰症の報告はありませんが、高濃度のモリブデンに長期間暴露された職業環境(鉱山労働者など)では、関節痛や痛風様症状が報告されています。NIH ODS

Q. ベジタリアンやヴィーガンでも不足しませんか?

豆類や全粒穀物、ナッツ類を日常的に食べていれば、ベジタリアンやヴィーガンでも十分量を摂取できます。むしろ植物性食品に多く含まれるミネラルです。

Q. 欠乏症はどのような症状ですか?

通常の食事では欠乏症はほとんど起こりません。欠乏症は遺伝性のモリブデン補因子欠損症という極めて稀な疾患でのみ見られ、重篤な神経症状を伴います。PubMed

Q. 銅との相互作用が心配です。どの程度注意が必要ですか?

通常の食事レベルでは問題ありませんが、サプリメントで高用量(耐容上限量を超える量)を長期間摂取すると、銅の吸収が妨げられる可能性があります。バランスの取れた食事を心がけることが大切です。

Q. 尿酸値が高い人はモリブデンを控えるべきですか?

モリブデンはキサンチン酸化酵素を介して尿酸生成に関わりますが、通常の食事からの摂取で尿酸値が上昇するという報告はありません。尿酸値が気になる場合は、プリン体の多い食品の摂取に注意し、医師に相談することが推奨されます。

本ページは公開資料や専門書を参考に要約した成分ガイドです。サプリメントを使用する際は医師・薬剤師など専門家の助言もあわせてご確認ください。