肝臓エキス(レバーエキス)とは
肝臓エキス(レバーエキス)は、豚や牛の肝臓を酵素分解(加水分解)して得られる低分子ペプチド・アミノ酸混合物です。分子量は通常2,000〜10,000ダルトン程度に調整され、通常のタンパク質と比べて消化吸収が早い(摂取後30〜45分で血中アミノ酸濃度がピークに達する)特徴があります。
肝臓は生体内で最も代謝活性が高い臓器であり、その抽出物にはヘム鉄、ビタミンB12、葉酸、ビタミンB群、必須アミノ酸、核酸関連物質などが豊富に含まれています。日本では古くから「疲労回復」や「滋養強壮」を目的とした健康食品として利用されてきました。
からだでの働きと科学的知見
肝臓エキスの主な効果として、以下の4つが示唆されています。
鉄分補給と吸収促進を助ける
肝臓エキスにはヘム鉄(有機鉄)が含まれており、非ヘム鉄(無機鉄)と比べて2〜3倍高い吸収率を示します。NIH さらに、2017年のシステマティックレビューでは、タンパク質加水分解物が非ヘム鉄の吸収を改善することが報告されています。PubMed アミノ酸やペプチドは、鉄を可溶性に保ち、第二鉄(Fe³⁺)を第一鉄(Fe²⁺)に還元し、腸管細胞膜を介した輸送を促進します。
ビタミンB12と葉酸の補給を助ける
肝臓は体内でビタミンB12と葉酸の貯蔵庫であり、その抽出物にはこれらの栄養素が高濃度で含まれています。USDA ビタミンB12は赤血球の成熟、神経機能の維持、DNA合成に必須であり、葉酸は細胞分裂や造血機能に関与します。ビタミンB12欠乏は巨赤芽球性貧血や神経障害を引き起こすため、適切な補給が重要です。
エネルギー代謝を助ける
肝臓エキスに含まれるビタミンB群(B1、B2、B6、ナイアシン、パントテン酸)は、糖質・脂質・タンパク質の代謝において補酵素として機能します。NIH 特にビタミンB1(チアミン)はピルビン酸デヒドロゲナーゼの補酵素として、エネルギー産生(ATP合成)に不可欠です。
アミノ酸の迅速な補給を助ける
加水分解により低分子化されたペプチドは、通常のタンパク質より消化が不要またはほぼ不要で、小腸から直接吸収されます。摂取後30〜45分で血中アミノ酸濃度がピークに達するため、疲労時や術後回復期など、迅速な栄養補給が必要な場面で有用です。
作用メカニズム
肝臓エキスが栄養補給と疲労回復をサポートするメカニズムには、以下の3つの経路が関与しています。
ヘム鉄ポリペプチド(HIP)の高い生物学的利用能:
ヘム鉄は、ポルフィリン環に鉄が配位した有機鉄であり、腸管上皮細胞のHCP1(heme carrier protein 1)トランスポーターを介して吸収されます。非ヘム鉄はDMT1(divalent metal transporter 1)を介して吸収されますが、食事中のフィチン酸やタンニンにより阻害されやすいのに対し、ヘム鉄は阻害因子の影響を受けにくい特徴があります。
タンパク質加水分解物による鉄吸収促進:
加水分解ペプチドと遊離アミノ酸は、以下の3つのメカニズムで非ヘム鉄の吸収を促進します:
- 鉄のキレート化: アミノ酸側鎖(ヒスチジン、システイン、グルタミン酸)が鉄とキレートを形成し、可溶性を維持
- 還元作用: システインなどの還元性アミノ酸が第二鉄(Fe³⁺)を第一鉄(Fe²⁺)に還元(第一鉄の方が吸収されやすい)
- 膜透過促進: 低分子ペプチド-鉄複合体が、ペプチドトランスポーター(PepT1)を介して腸管細胞に取り込まれる
ビタミンB12の補酵素機能:
ビタミンB12(コバラミン)は、体内で以下の2つの補酵素型に変換されます:
- メチルコバラミン: ホモシステインからメチオニンへの変換(メチル基転移)に関与、DNA合成と神経保護に必須NIH
- アデノシルコバラミン: メチルマロニルCoAからスクシニルCoAへの変換に関与、脂肪酸代謝とミトコンドリア機能に必須
栄養素どうしの関係と注意点
肝臓エキスは、適切な用量(1日200〜600mg程度)であれば、一般的に安全性が高いとされています。
報告されている軽微な副作用
- 軽度の消化器症状(稀)
- 鉄の過剰摂取による便秘(高用量時)
注意が必要なケース
- 鉄過剰症・ヘモクロマトーシス: 遺伝性鉄過剰症の方は使用を避けてください。NIH
- 痛風・高尿酸血症: 肝臓には核酸(プリン体)が含まれるため、プリン体制限が必要な方は医師に相談してください
- 妊娠中: ビタミンA過剰摂取のリスクがあるため、肝臓由来製品は医師に相談してください(肝臓エキスは通常ビタミンA含有量が低いですが、確認が必要)
- ワルファリン服用中: ビタミンKが含まれる可能性があるため、医師に相談してください
摂り方とタイミング
基本的な摂取量
- 一般的な健康維持: 1日200〜400mg
- 疲労回復・栄養補給: 1日400〜600mg
- 摂取タイミング: 食後(消化管刺激の軽減)
摂取のコツ
- ビタミンCとの併用: ビタミンCは非ヘム鉄の吸収を促進するため、併用が推奨されます
- お茶・コーヒーとの間隔: タンニンが鉄吸収を阻害するため、摂取の前後2時間は避けてください
- 継続摂取: 貧血改善には3〜6ヶ月の継続が推奨されます(血中フェリチン値の改善には時間がかかる)
食品から摂るには
肝臓エキス(レバーエキス)は、動物の肝臓(レバー)を加水分解・濃縮した栄養補助食品です。肝臓そのものを食品として摂取することも可能ですが、肝臓エキスとは異なる特徴があります。
レバーを含む食品
- 豚レバー: 最も一般的で入手しやすい(鉄、ビタミンA、ビタミンB12が豊富)
- 牛レバー: 豚レバーより鉄・亜鉛が豊富
- 鶏レバー: 脂肪が少なく、鉄・葉酸が豊富
- レバーペースト: レバーを加工したペースト状食品(スプレッド)
- レバニラ炒め: 中華料理で定番のレバー料理
- レバ刺し: 生レバー(食品衛生上のリスクがあり、日本では牛レバーの生食が禁止)
レバー(食品)と肝臓エキス(サプリメント)の違い
| 項目 | レバー(食品) | 肝臓エキス(サプリメント) |
|---|---|---|
| 栄養濃度 | 中程度(100gあたり鉄13mg程度) | 高濃度(加水分解・濃縮により栄養素が凝縮) |
| 吸収性 | 調理により一部栄養素が損失 | 加水分解により低分子化、吸収率向上 |
| 臭い・味 | 独特の臭み(血生臭さ) | カプセル化により臭み軽減 |
| ビタミンA | 非常に高い(100gあたり13,000 μg) | 低い(加水分解により除去される場合が多い) |
| プリン体 | 多い(100gあたり200〜300mg) | 少ない(製品により除去されている場合もある) |
| 携帯性 | 低い(調理必要、保存期限短い) | 高い(カプセル、常温保存可能) |
食事からの摂取の限界
レバーを食品として摂取する場合、以下の制約があります:
- ビタミンA過剰摂取リスク: 豚レバー100gで成人男性の1日推奨量の約15倍のビタミンAを摂取。過剰摂取により頭痛、吐き気、肝障害のリスク。妊娠初期の過剰摂取は胎児奇形のリスクがあるNIH
- プリン体: レバーは高プリン体食品(100gあたり200〜300mg)で、痛風・高尿酸血症の方には推奨されない
- 独特の臭み: 血生臭さが苦手な方には摂取が困難
- 調理の手間: 適切な下処理(血抜き、臭み抜き)が必要
- 量の調整が困難: 栄養補給目的で必要な量を毎日摂取するのは現実的ではない
サプリメントが推奨される理由
鉄欠乏性貧血の予防・改善、疲労回復、栄養補給を目的とする場合、肝臓エキスサプリメントが推奨されます。サプリメントは以下の利点があります:
- ビタミンA除去: 加工過程でビタミンAが除去または低減されており、過剰摂取リスクが低い
- 高い吸収率: 加水分解により低分子化されたペプチド・アミノ酸、ヘム鉄が効率的に吸収される
- 臭みなし: カプセル化により、レバー特有の臭みを感じることなく摂取可能
- 携帯性: カプセル・錠剤で携帯しやすく、いつでもどこでも摂取可能
- 標準化された用量: 鉄・ビタミンB12などの含有量が標準化されており、過不足なく摂取できる
