ラクトバチルス・アシドフィルスとは
ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)は、ヒトの腸管および膣に常在する乳酸菌の一種で、プロバイオティクス(有益菌)として広く研究されています。「アシドフィルス」という名称は、ラテン語の「acidus(酸性)」と「philos(好む)」に由来し、酸性環境を好む性質を表しています。
ラクトバチルス・アシドフィルスは、以下の3つの特性により、健康をサポートします:
- 乳酸産生: グルコース(ブドウ糖)を発酵し、乳酸を産生することで、腸内および膣内pHを低下させ(pH 4.0〜4.5程度)、有害菌の増殖を抑制します
- 腸管・膣管定着: 腸管上皮細胞および膣上皮細胞に付着し、バリア機能を強化します
- 免疫調整: 腸管免疫細胞(樹状細胞、マクロファージ、T細胞)を刺激し、免疫機能を調整します
近年の研究では、ラクトバチルス・アシドフィルスが腸内細菌叢の改善、膣内細菌叢の正常化、細菌性膣症の予防、免疫機能の強化に関与することが報告されています。
からだでの働きと科学的知見
ラクトバチルス・アシドフィルスの主な効果として、以下の4つが研究で示唆されています。
膣内細菌叢の正常化と細菌性膣症予防を助ける
2023年4月にNutrientsで発表されたランダム化比較試験では、19〜55歳の無症状女性で膣内細菌叢異常(Nugent score高値)を有する方を対象に、L. acidophilus CBT LA1、L. rhamnosus CBT LR5、L. reuteri CBT LU4の組み合わせを6週間経口摂取させました。
結果:
- 高度膣内細菌叢異常群(Nugent score ≥7): 60%の女性で膣内細菌叢が改善
- 膣内pH低下: 乳酸産生により膣内pHが正常化(pH 4.0〜4.5)
- 有害菌の減少: Gardnerella vaginalis、Prevotella等の有害菌が減少
この研究は、ラクトバチルス属乳酸菌の経口摂取により、膣内環境が改善され、細菌性膣症の予防に有用である可能性を示しています。PubMed
腸内環境の改善と腸管バリア機能強化を助ける
ラクトバチルス・アシドフィルスは、腸内で以下の作用を発揮します:
- 乳酸産生による腸内pH低下: pH 5〜6程度に低下し、有害菌(大腸菌、クロストリジウム等)を抑制
- 短鎖脂肪酸(SCFA)産生促進: ビフィズス菌などの有益菌と協働し、酢酸、プロピオン酸、酪酸の産生を促進
- 腸管バリア機能強化: タイトジャンクション(密着結合)タンパク質の発現を増加し、腸管透過性を低下(リーキーガット予防)
2021年の動物実験では、L. acidophilusが腸内細菌叢異常を改善し、腸管透過性を低下させることで、肥満を改善することが報告されました。PubMed
免疫機能の強化を助ける
ラクトバチルス・アシドフィルスは、腸管免疫細胞を刺激し、樹状細胞の活性化、制御性T細胞(Treg)の誘導、分泌型IgA(sIgA)産生促進などの免疫調整作用を発揮します。PMC 2020年のメタアナリシスでは、L. acidophilus補給により、IgAとT細胞分化が増加し、TNF-αやIL-6などの炎症性サイトカインが減少することが示されました。
尿路感染症(UTI)の予防を助ける
膣内ラクトバチルス(特にL. crispatus、L. acidophilus)は、尿路感染症(UTI: Urinary Tract Infection)の予防に関与します。PubMed 膣内の健康な乳酸菌叢は、膣内pH低下(pH 4.0〜4.5)による大腸菌の増殖抑制、バクテリオシン産生による病原菌の直接抑制、競合的排除による病原菌の定着阻害により、大腸菌などの病原菌の侵入を防ぎます。
作用メカニズム
ラクトバチルス・アシドフィルスが腸内環境と膣内環境をサポートするメカニズムには、以下の4つの経路が関与しています。
乳酸産生によるpH低下と有害菌抑制:
ラクトバチルス・アシドフィルスは、ヘテロ乳酸発酵により、グルコースから乳酸を産生します。乳酸は、以下のプロセスで環境を酸性化します:
- グルコースの取り込み: L. acidophilusが腸管・膣内のグルコースを取り込み
- 解糖系による乳酸産生: 解糖系(エムデン・マイヤーホフ経路)により、グルコースがピルビン酸を経て乳酸に変換
- pHの低下: 乳酸が蓄積し、腸内pH 5〜6、膣内pH 4.0〜4.5に低下
- 有害菌の抑制: 低pH環境により、大腸菌、Gardnerella vaginalis、Prevotella等の有害菌が抑制
腸管・膣管上皮細胞への付着とバリア機能強化:
ラクトバチルス・アシドフィルスは、表層タンパク質(surface layer protein)を持ち、腸管上皮細胞および膣上皮細胞に付着します。付着により、以下の効果が得られます:
- 競合的排除: L. acidophilusが上皮細胞に付着することで、病原菌の付着部位を占有し、病原菌の侵入を阻害
- タイトジャンクション強化: 上皮細胞間のタイトジャンクション(密着結合)タンパク質(オクルディン、クローディン)の発現を増加し、腸管・膣管バリア機能を強化
- 粘液産生促進: 杯細胞による粘液産生を促進し、物理的バリアを強化
免疫細胞刺激とサイトカイン産生調整:
ラクトバチルス・アシドフィルスは、パターン認識受容体(PRR)を介して、腸管免疫細胞を刺激します。L. acidophilusの細胞壁成分(リポテイコ酸、ペプチドグリカン)がToll様受容体(TLR2/4)に結合し、樹状細胞がサイトカイン(IL-10、IL-12、TNF-α等)を産生します。PMC これにより、制御性T細胞(Treg)が誘導され過剰な炎症が抑制され、B細胞がIgA抗体を産生して粘膜免疫が強化されます。
バクテリオシン産生による直接的抗菌作用:
ラクトバチルス・アシドフィルスは、バクテリオシン(bacteriocin)と呼ばれる抗菌ペプチドを産生します。バクテリオシンは、病原菌の細胞膜に穴を開け、細胞内容物を漏出させることで、病原菌を直接的に抑制します。
栄養素どうしの関係と注意点
ラクトバチルス・アシドフィルスは、一般的に安全性が高く、GRAS(Generally Recognized As Safe:一般的に安全と認められる)に分類されています。NIH
報告されている軽微な副作用
- 軽度の腹部膨満感(稀)
- ガス・鼓腸(稀)
注意が必要なケース
- 重度の免疫不全: HIV/AIDS、臓器移植後などの重度免疫不全の方は、医師に相談してください
- カテーテル使用中: 中心静脈カテーテル等を使用している方は、稀に菌血症のリスクがあるため、医師に相談してください
- 妊娠・授乳中: 一般的に安全とされていますが、使用前に医師に相談してください
摂り方とタイミング
基本的な摂取量
- 腸内環境改善目的: 1日10億〜100億CFU(コロニー形成単位)
- 膣内環境改善目的: 1日10億〜100億CFU(経口摂取)または膣錠による局所投与
- 摂取タイミング: 朝食時または就寝前(一日一回)
摂取のコツ
- 継続摂取: 腸内・膣内細菌叢の改善効果は、4〜6週間の継続で最大化されます
- 食事との併用: プレバイオティクス(オリゴ糖、イヌリン等)と併用すると、L. acidophilusの定着が促進されます(シンバイオティクス効果)
- 抗生物質使用時: 抗生物質治療中は、腸内・膣内細菌叢が乱れるため、L. acidophilusの補充が推奨されます。ただし、抗生物質服用の2〜3時間後に摂取してください
- 膣内環境改善: 経口摂取でも効果がありますが、膣錠による局所投与の方が直接的な効果が期待できます
- 保存方法: 生菌製品は冷蔵保存が推奨されます。常温保存可能な製品もありますが、ラベルの指示に従ってください
食品から摂るには
ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)は、発酵乳製品に含まれる乳酸菌であり、ヨーグルトやケフィアなどから摂取できます。
ラクトバチルス・アシドフィルスを含む食品
- ヨーグルト: L. acidophilusを含むヨーグルト製品(「生きて腸に届く」表示があるもの)
- アシドフィルスミルク: L. acidophilusで発酵させた乳製品
- ケフィア: 複数の乳酸菌・酵母で発酵させた発酵乳(L. acidophilus含む場合がある)
- 発酵乳飲料: 飲むヨーグルト、乳酸菌飲料(L. acidophilus含有製品)
- サワークリーム: 発酵乳製品(L. acidophilus含む場合がある)
- L. acidophilusサプリメント: 標準化された菌数(10億〜100億CFU)を含む栄養補助食品
発酵乳製品とサプリメントの違い
| 項目 | ヨーグルト等の発酵乳製品 | L. acidophilusサプリメント |
|---|---|---|
| 菌数 | 製品により大きくばらつく(10⁶〜10⁹ CFU/g程度) | 標準化された菌数(10億〜100億CFU/カプセル) |
| 菌株 | 複数のラクトバチルス属菌が混在(菌株不明) | 特定菌株を使用(菌株番号で管理) |
| 保存性 | 要冷蔵、賞味期限短い(数週間) | 常温保存可能(一部製品)、賞味期限長い(1〜2年) |
| 糖分・カロリー | 砂糖・果糖添加製品が多い(100gあたり10〜20g程度) | 糖分・カロリーほぼゼロ |
| 携帯性 | 低い(冷蔵保存必要) | 高い(常温保存、携帯可能) |
| 臨床研究 | 限定的 | 特定菌株で多数の臨床試験 |
食事からの摂取の限界
発酵乳製品に含まれるL. acidophilusには、以下の制約があります:
- 菌数のばらつき: 発酵条件により菌数が大きく変動する
- 菌株の特定困難: ヨーグルトに含まれるLactobacillus属菌の中に、臨床試験で効果が確認された特定菌株が含まれるかは不明
- 糖分・カロリー: 市販ヨーグルトは砂糖添加製品が多く、糖質・カロリーが高い
- 保存・携帯性: 冷蔵保存が必要で、持ち運びが困難
- 量の調整が困難: 臨床試験で使用される標準化用量(10億〜100億CFU)を正確に摂取するのが難しい
- 胃酸の影響: ヨーグルトに含まれるL. acidophilusは、胃酸により一部が死滅する可能性がある
サプリメントが推奨される理由
腸内環境改善、膣内環境改善、免疫サポートを目的とする場合、標準化された菌数・特定菌株を含むL. acidophilusサプリメントが推奨されます。サプリメントは、臨床試験で効果が確認された用量(10億〜100億CFU/日)を正確に摂取でき、糖分ゼロ、カロリーほぼゼロ、保存・携帯性にも優れています。また、腸溶性カプセル製品を選ぶことで、胃酸の影響を受けずに腸まで生きた菌を届けることができます。
