アミノ酸・ペプチド

L-チロシン|ストレス下での神経伝達物質合成を支える

ストレスや疲労が続くと集中力が低下しやすい人に向け、L-チロシンがドーパミンやノルアドレナリンの前駆体としてどのように働くかを一次情報に基づいてやさしく解説します。

※ 主な作用: 神経伝達物質前駆体(ドーパミン・ノルエピネフリン)・甲状腺ホルモン合成サポート

ソファーに座ったまま頭を抱える男
Photo by Nik Shuliahin
摂取基準値
RDA(推奨量)mg
AI(目安量)mg
UL(耐容上限量)mg

ストレスや疲労が続くと集中力が低下しやすい人に向けた非必須アミノ酸です。L-チロシンは体内でフェニルアラニンから合成され、ドーパミンやノルアドレナリンといった神経伝達物質の前駆体として働きます。ストレス負荷が高い状況では需要が増えるため、食事やサプリメントでの補給が役立つ場合があります。

  • 主な働き:神経伝達物質の前駆体としてドーパミン・ノルアドレナリン合成に関与
  • 摂るタイミング:朝食時に食事と一緒に、またはストレス前の空腹時
  • 相性:ビタミンB6や鉄が神経伝達物質合成の補酵素として働く
  • 注意:甲状腺機能亢進症や一部の薬剤との相互作用に配慮
  • 食品例:肉類、魚類、卵、大豆製品、乳製品、ナッツ類

L-チロシンとは

L-チロシンは体内でフェニルアラニンから合成できる非必須アミノ酸で、タンパク質の構成要素として重要な役割を担います。この成分はチロシン水酸化酵素によってL-DOPAに変換され、さらにドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンといったカテコールアミン系神経伝達物質の合成に使われます。PMCストレス負荷が高い状況では、神経伝達物質の消費が増え、チロシンの需要も高まることが知られています。

からだでの働きと科学的知見

L-チロシンは体内で多様な代謝経路に関与します。主な経路はカテコールアミン合成で、チロシン水酸化酵素の働きによりL-DOPAに変換され、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンへと順次合成されます。これらの神経伝達物質は、注意力、集中力、気分の調節に関与します。

研究では、ストレスや認知的要求が高い状況でL-チロシンの補給が有用である可能性が示されています。ストレス下では神経伝達物質の消費が増加し、チロシンの枯渇が認知パフォーマンスの低下につながる可能性があります。PubMed

臨床研究として、L-チロシンの補給が認知的ストレス下でのワーキングメモリや注意力の維持を助けることが報告されています。PubMedただし、効果は個人差が大きく、すべての人に同じ効果があるわけではありません。

また、L-チロシンは甲状腺ホルモンの合成にも関与します。チロシンはヨウ素と結合してチロキシン(T4)やトリヨードチロニン(T3)といった甲状腺ホルモンを形成します。これらのホルモンは代謝調節に重要な役割を果たします。

研究テーマ エビデンス強度 補足
神経伝達物質合成 カテコールアミン前駆体として確立
ストレス下の認知機能 複数研究で効果報告、個人差あり
甲状腺ホルモン合成 必須成分として確立

摂り方とタイミング

L-チロシンは食事から自然に摂取することが基本です。肉類、魚類、卵、大豆製品、乳製品など、タンパク質が豊富な食品に多く含まれています。サプリメントとして摂取する場合は、朝食時に食事と一緒に摂ることで、他の栄養素とのバランスを保ちやすくなります。

ストレス負荷が予想される状況(試験、プレゼンテーション、激しい運動など)の前に摂取する場合は、空腹時の単独摂取も検討されることがあります。これは、大型中性アミノ酸が脳への取り込みで競合するためです。ただし、個人差が大きいため、医師や栄養士に相談することが推奨されます。

一般的な補給量の目安は、体重1kgあたり50〜100mg程度とされていますが、具体的な摂取量については専門家に相談してください。PubMed

栄養素どうしの関係と注意点

組み合わせ 推奨度 コメント
ビタミンB6 アミノ酸代謝の補酵素として働く
チロシン水酸化酵素の補因子として必要
ビタミンC ドーパミンからノルアドレナリンへの変換に関与
他の大型中性アミノ酸 脳への取り込みで競合する可能性
MAO阻害薬 × カテコールアミン蓄積のリスク、医師に相談必須
甲状腺ホルモン剤 相互作用の可能性、医師に相談

L-チロシンは、MAO阻害薬(抗うつ薬の一種)を服用中の人にとって注意が必要です。MAO阻害薬はカテコールアミンの分解を抑えるため、L-チロシンの摂取により神経伝達物質が過剰に蓄積する可能性があります。また、甲状腺機能亢進症の人や甲状腺ホルモン剤を服用中の人も、医師に相談してください。PubMed

食品から摂るには

L-チロシンは以下の食品に多く含まれます:

  • 肉類:鶏むね肉、牛肉、豚肉(100gあたり800〜1,200mg程度)
  • 魚類:マグロ、サケ、タラ(100gあたり600〜1,000mg程度)
  • :全卵(1個あたり約250mg)
  • 大豆製品:豆腐、納豆、枝豆(100gあたり300〜800mg程度)
  • 乳製品:牛乳、チーズ、ヨーグルト(100gあたり300〜800mg程度)
  • ナッツ類:アーモンド、ピーナッツ(100gあたり800〜1,200mg程度)

タンパク質が豊富な食品をバランスよく摂ることで、L-チロシンを含む必須アミノ酸全体を効率的に摂取できます。

よくある質問

Q. L-チロシンとL-フェニルアラニンの違いは?

L-フェニルアラニンは必須アミノ酸で、体内で合成できないため食事からの摂取が必須です。L-チロシンは非必須アミノ酸で、体内でL-フェニルアラニンから合成できます。ただし、ストレス負荷が高い状況では需要が増えるため、食事やサプリメントでの補給が役立つ場合があります。

Q. 摂取量の目安は?

健康な成人の場合、体重1kgあたり50〜100mg程度が一般的な目安とされています。体重60kgの人であれば、1日あたり3,000〜6,000mg程度です。通常の食事で十分に摂取できるため、サプリメントでの追加摂取は医師や栄養士と相談することが推奨されます。

Q. いつ摂るのが良い?

L-チロシンは朝食時に摂ることで、日中の神経伝達物質の合成を助ける可能性があります。ストレス負荷が予想される状況の前に摂取する場合は、空腹時の単独摂取も検討されることがあります。ただし、個人差が大きく、夜間に摂取すると睡眠に影響を与える場合もあるため、自分の体調を観察しながら調整することが大切です。

Q. 神経伝達物質への影響は?

L-チロシンはドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンの合成に関与します。PubMedただし、神経伝達物質の産生は多くの要因(他の栄養素、酵素活性、神経細胞の活動状態など)に依存するため、L-チロシンの摂取だけで神経伝達物質が増えるわけではありません。バランスの取れた食事と健康的な生活習慣が基本です。

Q. サプリメントは必要?

通常の食事でタンパク質を十分に摂取している人は、L-チロシンのサプリメントは必要ありません。偏食や特定の食事制限をしている場合、または高ストレス環境にある場合を除き、バランスの良い食事を心がけることが基本です。サプリメントを検討する場合は、医師や管理栄養士に相談してください。

Q. 副作用はある?

一般的には安全とされますが、高用量の摂取では胃腸不快、頭痛、不安感が報告されています。また、甲状腺機能亢進症の人やMAO阻害薬を服用中の人は、医師に相談してください。通常の食事からの摂取であれば、副作用の心配はほとんどありません。

本ページは公開資料や専門書を参考に要約した成分ガイドです。サプリメントを使用する際は医師・薬剤師など専門家の助言もあわせてご確認ください。