腸管バリアと免疫機能が気になる人に注目されるアミノ酸です。 L-グルタミン(glutamine)は、体内で最も豊富に存在する非必須アミノ酸で、腸管上皮細胞と免疫細胞の主要なエネルギー源として機能します。 2024年10月に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは、グルタミン摂取が腸管透過性に与える影響が包括的に評価されました。
- 主な働き:腸管バリア機能維持、免疫細胞サポート、筋タンパク質合成との関連
- 摂るタイミング:運動後または食事時、1日あたり5〜10g
- 相性:BCAA、ロイシン、HMB
- 注意:腎機能障害のある方は医師に相談
- 食品例:肉類、魚類、卵、大豆製品、乳製品
L-グルタミンとは
L-グルタミン(glutamine)は、体内で最も豊富に存在する非必須アミノ酸で、血中アミノ酸の約60%、筋肉中の遊離アミノ酸の約60%を占めています。非必須アミノ酸とは、体内で合成できるアミノ酸を意味しますが、激しい運動、感染、外傷、手術などのストレス状態では、体内での合成量が需要に追いつかなくなるため、「条件付き必須アミノ酸」とも呼ばれます。
L-グルタミンは、以下の細胞の主要なエネルギー源として機能します:
- 腸管上皮細胞(腸粘膜細胞):腸管バリア機能の維持に不可欠
- 免疫細胞(白血球、リンパ球):免疫機能の維持に不可欠
- 線維芽細胞:創傷治癒に関与
また、L-グルタミンは、タンパク質合成の材料となるだけでなく、窒素の運搬、グルタチオン(抗酸化物質)の合成、核酸の合成など、多様な代謝経路に関与しています。
臨床研究では、1日あたり5〜30gの摂取が用いられており、腸管バリア機能、免疫機能、筋肉回復との関連が評価されています。
からだでの働きと科学的知見
L-グルタミンは、腸管バリア機能、免疫機能、筋肉回復との関連で広く研究されています。
腸管透過性(腸管バリア機能)との関連
2024年10月に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシス(Amino Acids誌)では、グルタミン摂取が腸管透過性に与える影響が評価されました。PubMed、Scopus、Web of Science、Google Scholarで2023年4月までの文献を検索し、10件の研究(352名)を分析した結果、全体としてはグルタミン摂取が腸管透過性に有意な影響を示さなかったものの、サブグループ解析では、30g/日を超える用量で腸管透過性が有意に低下することが示されました。また、2週間未満の短期摂取で効果が見られることも報告されています。PubMed
腸管バリア機能のメカニズム
L-グルタミンは、以下のメカニズムで腸管バリア機能を維持します:
- 腸管上皮細胞の主要エネルギー源:腸粘膜細胞は、グルタミンをエネルギー源として利用し、細胞の増殖と生存を維持します。
- タイトジャンクション(密着結合)の維持:腸管上皮細胞間の結合を強化し、腸管透過性を適切に保ちます。
- 粘液層の維持:ムチン(粘液の主成分)の産生を促進し、腸管バリアを物理的に保護します。
- 抗炎症作用:炎症性サイトカインの産生を抑制し、腸粘膜の炎症を軽減します。
グルタミン欠乏は、腸絨毛の萎縮、タイトジャンクションタンパク質の発現低下、腸管透過性の増加を引き起こすことが報告されています。
運動中の腸管透過性改善
運動、特に暑熱環境下での運動は、腸管透過性を増加させることが知られています。2017年の研究では、7日間のグルタミン摂取(除脂肪体重1kgあたり0.9g/日)により、暑熱環境下での運動中の腸管透過性が用量依存的に低下することが確認されました。PubMed
免疫機能との関連
L-グルタミンは、免疫細胞(白血球、リンパ球、マクロファージ)の主要なエネルギー源であり、免疫機能の維持に不可欠です。激しい運動や感染により血中グルタミン濃度が低下すると、免疫機能が低下し、感染症のリスクが増加します。PubMed
グルタミン摂取により、免疫細胞の機能が維持され、感染症の発生率が低下する可能性が報告されています。特に、オーバートレーニング状態のアスリートや格闘技選手では、グルタミン欠乏が免疫抑制と感染率増加に関与することが示唆されています。PubMed
筋肉ダメージと回復との関連
2021年に発表された臨床試験では、プロバスケットボール選手を対象に、グルタミン6g/日を40日間摂取させました。グルタミン摂取群では、血中のAST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)、CK(クレアチンキナーゼ)、ミオグロビン(筋損傷マーカー)が有意に低値を示し、筋肉ダメージが軽減されることが確認されました。PubMed
L-グルタミンは、タンパク質合成の刺激と筋タンパク質分解の抑制を通じて、筋肉の維持と回復に関与します。特に、mTORC1(mammalian target of rapamycin complex 1)という筋肉成長と修復の重要な調節因子を活性化することが報告されています。
2025年の文献レビューでは、L-グルタミンがロイシンやHMBと併用することで、筋肉の維持と再生に相乗効果を示すことが指摘されています。PubMed
| 研究テーマ | エビデンス強度 | 補足 |
|---|---|---|
| 腸管透過性低下 | 中 | 30g/日超で有意な低下PubMed |
| 腸管バリア機能 | 高 | タイトジャンクション維持、複数研究で確認 |
| 免疫機能維持 | 中 | 免疫細胞のエネルギー源、感染率低下 |
| 筋肉ダメージ軽減 | 中 | バスケットボール選手で筋損傷マーカー低下 |
摂り方とタイミング
L-グルタミンの推奨量は、臨床研究で使用された量に基づき、1日あたり5〜10g程度とされています。腸管透過性の改善を期待する場合は、30g/日以上が用いられることもありますが、高用量は医師の指導のもとで使用することが推奨されます。
運動後に摂取することが一般的にすすめられます。激しい運動後は血中グルタミン濃度が低下するため、運動直後の摂取が筋肉回復と免疫機能の維持に適しています。
食事時に分割して摂取することも推奨されます。例えば、朝食時・運動後・夕食時に分割することで、血中グルタミン濃度を安定的に維持できます。
L-グルタミンは、水溶性であり、水やプロテインシェイクに溶かして摂取できます。熱に比較的安定していますが、高温での長時間加熱は避けることが推奨されます。
臨床研究では7日間〜数ヶ月の継続摂取で評価されており、短期間(7〜14日間)でも効果が見られることが報告されています。
栄養素どうしの関係と注意点
L-グルタミンは他の栄養素との組み合わせで相乗効果が期待できます。
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| BCAA(分岐鎖アミノ酸) | ○ | 筋肉回復との相乗効果 |
| ロイシン | ○ | 筋肉維持・再生との相乗効果 |
| HMB | ○ | 筋肉維持との相乗効果 |
| プロバイオティクス | ○ | 腸内環境との相乗効果 |
注意点として、L-グルタミンは一般的には安全性が高いとされていますが、以下の点に注意が必要です:
- 腎機能障害・肝機能障害:アミノ酸代謝に影響を与えるため、腎機能または肝機能に障害のある方は医師に相談することが推奨されます。
- 消化器症状:高用量(30g以上)では、まれに胃腸の不快感、下痢、吐き気が報告されています。
- 妊娠中・授乳中:安全性に関する十分なデータがないため、妊娠中・授乳中の方は医師に相談することが推奨されます。
- がん患者:一部のがん細胞がグルタミンを栄養源として利用する可能性が示唆されているため、がん治療中の方は医師に相談することが推奨されます。
食品から摂るには
L-グルタミンは、たんぱく質を含む食品に広く含まれています。
| 食品 | L-グルタミン含有量(100gあたり) |
|---|---|
| 鶏むね肉 | 約3.5〜4g |
| 牛肉 | 約3〜3.5g |
| サーモン | 約2.5〜3g |
| 卵 | 約1.5〜2g |
| 大豆 | 約6〜7g |
| 豆腐 | 約0.6〜0.8g |
| 牛乳 | 約0.3〜0.4g |
| ヨーグルト | 約0.4〜0.6g |
1日の推奨量(5〜10g)を食品から摂取するには:
- 鶏むね肉:約150〜300g
- 大豆:約70〜150g
- 豆腐:約600〜1,600g
通常の食事から、1日あたり3〜6g程度のL-グルタミンを摂取していると推定されます。激しい運動やストレス状態では、食事からの摂取だけでは不足する可能性があるため、サプリメントでの補給が推奨されます。
食品からの摂取のポイント:
- 高たんぱく質食品(肉、魚、卵、大豆製品)を積極的に摂取
- 調理による損失を考慮し、生食や短時間調理を心がける
- バランスの取れた食事を基本とする
サプリメントとして摂取する場合は、L-グルタミンパウダーまたはカプセルの形態で提供されている製品を選びます。信頼できるメーカーの製品を選び、製品の表示や推奨量に従うことが重要です。
