アミノ酸・ペプチド

L-シトルリン|血流と運動パフォーマンスを支える

運動時のパフォーマンスや血流が気になる方に。L-シトルリンは一酸化窒素(NO)の産生を通じて血管拡張に関与するアミノ酸で、運動前の摂取が研究されています。科学的知見と摂り方を解説します。

※ 主な作用: 一酸化窒素前駆→パンプ/血流

室内で運動する女性
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摂取基準値
RDA(推奨量)mg
AI(目安量)mg
UL(耐容上限量)mg

運動時のパフォーマンス支援や血流のバランスに関心がある方に向けた、一酸化窒素(NO)産生に関わるアミノ酸です。 L-シトルリンはL-アルギニンを経由して一酸化窒素を産生し、血管拡張と血流の調整に関与します。 運動の30〜60分前に摂取するのが一般的で、比較的安全性が高いとされています。

  • 主な働き:一酸化窒素産生サポート・血管拡張・運動パフォーマンス向上
  • 摂るタイミング:運動前30〜60分、または朝食時
  • 注意:血圧降下薬との併用は医師に相談
  • 対象:運動習慣のある方・血流が気になる方
  • 食品例:スイカ、メロン、キュウリなどウリ科植物

L-シトルリンとは

L-シトルリンは、体内で合成される非必須アミノ酸の一種です。名前の由来はスイカの学名「Citrullus」で、1930年にスイカから初めて分離されました。

体内では、L-シトルリンは腎臓でL-アルギニンに変換され、さらに一酸化窒素(NO)合成の基質となります。L-アルギニンを直接摂取するよりも、L-シトルリンを摂取する方が血中アルギニン濃度を効率的に高めることができます。これは、L-シトルリンが肝臓の初回通過代謝を回避し、より長く循環するためです。PMC

現代では、運動パフォーマンスの向上、血流の調整、心血管系の健康維持を目的としたサプリメントとして使用されています。

からだでの働きと科学的知見

L-シトルリンは、主に一酸化窒素(NO)産生を通じて血管拡張と血流の調整に関与します。

一酸化窒素(NO)産生経路

L-シトルリンは、内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)の基質であるL-アルギニンの有効な前駆体として機能します。一酸化窒素は血管内皮で産生され、血管平滑筋の弛緩を促進し、血管拡張をもたらします。

このメカニズムにより、骨格筋への血流が増加し、運動パフォーマンス、筋肥大、筋力適応に寄与する可能性があります。PMC

運動パフォーマンスへの影響

複数の研究で、L-シトルリン補給が運動パフォーマンスに及ぼす影響が検討されています。

  • 有酸素運動:2022年のメタアナリシスでは、シトルリン補給が有酸素運動パフォーマンス、乳酸値、酸素摂取動態、自覚的運動強度(RPE)に肯定的な影響を与えることが示されました。PubMed
  • 筋持久力:慢性的なシトルリン補給は上半身の筋持久力と運動後の一酸化窒素応答を向上させる可能性が示唆されています
  • 筋肉痛軽減:L-シトルリンを豊富に含むスイカジュースの摂取により、運動後24時間の筋肉痛と心拍回復に良好な変化が報告されています。PubMed
  • 即時の変化:単回8gの急性投与では、等尺性筋力、筋持久力、筋酸素化パラメータの向上は見られなかったという研究もあります

研究結果は用量、期間、対象者のトレーニング状態によって異なります。

心血管系への影響

心血管系に対する効果も複数報告されています。

  • 血管攣縮性狭心症患者:1日800mgのL-シトルリンを8週間摂取したところ、血流依存性血管拡張反応(FMD)が4週時点と8週時点で有意に改善しました。PMC
  • 高血圧閉経後女性:1日10gのL-シトルリンを4週間摂取したところ、血清L-アルギニン値、FMD、大動脈血圧が改善しました。PMC
  • 心不全患者:L-アルギニン(8g/日)またはL-シトルリン(3g/日)を60日間投与したところ、内皮機能が改善しました
研究テーマ エビデンス強度 補足
一酸化窒素産生 複数の研究で確認
有酸素運動パフォーマンス メタアナリシスで支持
血管内皮機能 複数の臨床試験で報告
筋力増加 結果は一貫せず

摂り方とタイミング

L-シトルリンは、目的によって摂取タイミングが異なります。

運動パフォーマンス目的

運動の30〜60分前に摂取するのが一般的です。研究では3〜8gの用量が使用されています。単回投与よりも、数週間の継続摂取で効果が見られることが多いです。

心血管系の健康維持目的

1日あたり3〜10gを1〜2回に分けて摂取します。朝食時または食事とともに摂取するのが一般的です。

形態の違い:

  • L-シトルリン:純粋なシトルリン
  • シトルリンマレート:シトルリンとリンゴ酸の化合物。研究ではどちらの形態でも効果に大きな差は見られていません

栄養素どうしの関係と注意点

L-シトルリンは、他の栄養素や医薬品との相互作用に配慮が必要です。

組み合わせ 推奨度 コメント
L-アルギニン × L-シトルリン 併用で相乗効果の可能性
血圧降下薬 血圧低下作用、医師に相談必須
PDE5阻害薬(ED薬) 相互作用の可能性、医師に相談
ビタミンC × L-シトルリン 一酸化窒素の安定性向上
硝酸薬 血圧低下リスク、併用注意

注意点:

  • 低血圧:血管拡張作用があるため、低血圧の方は注意が必要です
  • 腎疾患:腎機能障害のある方は、医師に相談してください
  • 妊娠中・授乳中:安全性データが不足しているため、使用を避けるか医師に相談してください
  • 手術前:血圧に影響する可能性があるため、手術予定がある場合は2週間前から中止することが推奨されます

食品から摂るには

L-シトルリンは、特にウリ科の植物に多く含まれています。

L-シトルリンを多く含む食品:

  • スイカ(特に白い部分)
  • メロン
  • キュウリ
  • ヘチマ
  • ゴーヤ

スイカには100gあたり約250mgのシトルリンが含まれていますが、サプリメントで使用される3〜8gを食品から摂取するのは現実的ではありません。運動パフォーマンス向上を目的とする場合は、サプリメントの使用が一般的です。

調理のポイント:

  • スイカは果肉よりも皮の白い部分(rinds)に多く含まれています
  • 加熱によるシトルリンの損失は比較的少ないとされています

よくある質問

Q. L-アルギニンとL-シトルリン、どちらを摂るべきですか?

L-シトルリンはL-アルギニンよりも生体利用率が高く、肝臓の初回通過代謝を回避するため、血中アルギニン濃度をより効率的に高めることができます。多くの研究では、L-シトルリンの方が推奨されています。

Q. どのくらいの期間摂取すれば効果がありますか?

急性効果は単回摂取でも得られることがありますが、多くの研究では1〜4週間の継続摂取で効果が見られています。個人差がありますが、少なくとも2〜4週間の継続が推奨されます。

Q. 運動しない日も摂取すべきですか?

慢性的な効果を得るためには、運動しない日も継続して摂取することが推奨されます。血管内皮機能の改善には継続的な一酸化窒素産生が重要です。

Q. 副作用はありますか?

L-シトルリンは一般的に忍容性が良好で、重大な副作用は稀です。高用量(10g以上)では消化器症状(胃のむかつき、下痢)が報告されることがあります。適切な用量を守れば、安全性は高いとされています。

Q. 筋肉増強剤ですか?

L-シトルリンは筋肉増強剤ではありません。血流改善を通じて運動パフォーマンスをサポートする栄養素であり、直接的に筋肉を増やす作用はありません。適切なトレーニングと栄養摂取が前提です。

Q. シトルリンマレートとL-シトルリン、どちらが良いですか?

研究では両者の効果に大きな差は見られていません。シトルリンマレートはリンゴ酸が加わっているため、エネルギー代謝にわずかな利点がある可能性がありますが、決定的な差ではありません。どちらを選んでも問題ありません。

本ページは公開資料や専門書を参考に要約した成分ガイドです。サプリメントを使用する際は医師・薬剤師など専門家の助言もあわせてご確認ください。