筋肉の維持と加齢による筋力低下が気になる人に注目されるロイシン代謝産物です。 HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸、beta-hydroxy beta-methylbutyrate)は、必須アミノ酸ロイシンの代謝過程で生成される物質で、筋タンパク質の合成促進と分解抑制との関連で研究されています。 2023年に発表されたランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、サルコペニアのある高齢者を対象に、HMB摂取により筋力と身体機能が改善されたと報告されています。
- 主な働き:筋タンパク質合成促進、筋タンパク質分解抑制、筋肉量維持、筋力維持
- 摂るタイミング:運動後、1日あたり1.5〜3g
- 相性:たんぱく質、ビタミンD、クレアチン
- 注意:腎機能障害のある方は医師に相談
- 食品例:サプリメントとして提供されている
HMBとは
HMB(β-ヒドロキシ-β-メチル酪酸、beta-hydroxy beta-methylbutyrate)は、必須アミノ酸ロイシンの代謝過程で生成される物質です。ロイシンの約5%がHMBに変換されると推定されています。
HMBは、筋タンパク質の合成(アナボリック作用)と分解抑制(抗カタボリック作用)の両方に関与すると考えられており、筋肉量と筋力の維持、サルコペニア(加齢による筋肉量・筋力の低下)の予防との関連で注目されています。
サプリメントとしては、HMBカルシウム塩(HMB-Ca)またはHMB遊離酸(HMB-FA)の形態で提供されます。国際スポーツ栄養学会(ISSN)は、HMBの安全性、作用機序、生理学的影響、栄養面について包括的な見解を公表しており、臨床研究では1日あたり1.5〜3gの摂取が一般的に用いられています。
からだでの働きと科学的知見
HMBは、筋タンパク質の合成促進、分解抑制、筋肉量・筋力維持との関連で研究されています。
サルコペニアとの関連
2023年6月に発表されたランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、サルコペニアのある高齢者(平均年齢72.3歳)104名を対象に、HMB 3g/日またはプラセボを12週間摂取させました。HMB摂取群では、握力、歩行速度、Short Physical Performance Battery(SPPB)スコアがプラセボ群と比較して有意に改善されました。PubMed
2019年に発表されたシステマティックレビューでは、高齢者のサルコペニアと機能的フレイルに対するHMBの効果が包括的に評価されました。HMBは、特に栄養療法や運動療法と組み合わせることで、サルコペニアと機能的フレイルの改善に関与する可能性が示されています。PubMed
2025年に発表された最新のメタアナリシスでは、サルコペニア患者におけるHMB補給の効果が系統的に評価されました。現在のエビデンスは、HMB補給が筋肉量と筋力の改善に有益であることを示していますが、身体パフォーマンスへの効果については更なる研究が必要とされています。PubMed
高齢者の体組成と筋力との関連
2021年に発表された臨床試験のレビューでは、高齢者を対象としたHMB摂取の研究が包括的にまとめられました。HMBは、特に寝たきりまたは運動不足の高齢者において、体組成と筋力に肯定的な関与を示すことが報告されています。PubMed
2019年に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは、HMBが骨格筋量と身体機能に与える影響が臨床実践の観点から評価されました。15件のランダム化比較試験(2137名)を含む解析により、HMB単独またはHMB含有サプリメントが骨格筋量の増加と筋力の向上に関与することが確認されました。PubMed
筋タンパク質合成と分解のメカニズム
HMBは、以下の複数のメカニズムで筋肉に関与すると考えられています:
- mTOR経路の活性化:筋タンパク質合成を促進するmTOR(mammalian target of rapamycin)経路を活性化します。
- 筋タンパク質分解の抑制:ユビキチン-プロテアソーム系を抑制し、筋タンパク質の分解を抑制します。
- 細胞膜の安定化:筋細胞膜の構造を安定化させ、運動による筋損傷を軽減します。
運動との併用効果
2024年に発表されたシステマティックレビューとメタアナリシスでは、サルコペニア患者における運動単独とHMB併用運動の効果が比較されました。現在のエビデンスは、運動とHMB補給の併用が、プラセボ併用運動と比較して、サルコペニア患者の身体パフォーマンスを向上させる可能性を示していますが、筋肉量、筋力、体組成への効果は最小限である可能性が指摘されています。PubMed
50歳以上の筋肉量・筋力への効果
2025年に発表されたメタアナリシスでは、50歳以上の個人を対象としたHMB摂取の効果が評価されました。HMBは、筋肉量と筋力の向上に関与し、体重や体脂肪量には影響を与えないことが確認されました。
安全性評価
国際スポーツ栄養学会(ISSN)の2024年ポジションスタンドでは、750以上の原著論文およびレビュー論文を検討し、HMBの安全性と有用性について包括的な見解を示しています。HMBは、適切な用量(1.5〜3g/日)で摂取する場合、安全性が高いとされています。
| 研究テーマ | エビデンス強度 | 補足 |
|---|---|---|
| サルコペニア改善 | 中 | 12週間RCT(104名)で筋力・身体機能改善PubMed |
| 高齢者の筋力維持 | 中 | 複数の臨床試験で確認PubMed |
| 筋タンパク質合成 | 高 | mTOR経路活性化、分解抑制を確認 |
| 運動効果増強 | 中 | レジスタンストレーニングとの相乗効果 |
摂り方とタイミング
HMBの推奨量は、臨床研究および国際スポーツ栄養学会(ISSN)の見解に基づき、1日あたり1.5〜3g程度とされています。最も一般的な用量は3g/日です。
運動後に摂取することが一般的にすすめられます。HMBは、運動による筋タンパク質の分解を抑制し、合成を促進する作用があるため、運動後の摂取が適しているとされています。
1日の推奨量を3回(1g×3回)に分割して摂取することで、血中濃度を一定に保つことができます。例えば、朝食時・昼食時・運動後(または夕食時)に分割摂取することが推奨されます。
HMBには、以下の2つの形態があります:
- HMBカルシウム塩(HMB-Ca):最も一般的な形態。吸収に約2時間かかる。
- HMB遊離酸(HMB-FA):より速く吸収される形態。吸収に約30分。運動直前の摂取に適している。
臨床研究では4〜12週間程度の継続摂取で評価されており、即効性を期待するよりも、継続的な使用で緩やかな変化を見守る姿勢が適切です。
栄養素どうしの関係と注意点
HMBは他の栄養素との組み合わせで相乗効果が期待できます。
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| たんぱく質 | ◎ | 筋タンパク質合成との相乗効果 |
| ビタミンD | ○ | 筋力維持との関連 |
| クレアチン | ○ | 筋力・筋肉量維持との相乗効果 |
| BCAA(ロイシン) | △ | ロイシンからHMBが生成される |
注意点として、HMBは一般的には安全性が高いとされていますが、以下の点に注意が必要です:
- 腎機能障害:腎機能障害のある方は、HMB摂取前に医師に相談することが推奨されます。代謝産物の蓄積が懸念されます。
- 消化器症状:高用量(3g以上)では、まれに胃腸の不快感、下痢、吐き気が報告されています。
- 妊娠中・授乳中:安全性に関する十分なデータがないため、妊娠中・授乳中の方は医師に相談することが推奨されます。
- 医薬品との相互作用:現時点で重大な相互作用は報告されていませんが、薬を服用している方は医師に相談することが推奨されます。
食品から摂るには
HMBは、ロイシンの代謝産物であるため、ロイシンを多く含む食品を摂取することで、体内でHMBが生成されます。ただし、ロイシンの約5%しかHMBに変換されないため、食品からHMBを十分量摂取することは現実的ではありません。
| 食品 | ロイシン含有量(100gあたり) | HMB換算(推定) |
|---|---|---|
| 鶏むね肉 | 約2.5g | 約0.125g |
| 牛肉 | 約2.0g | 約0.1g |
| サーモン | 約1.8g | 約0.09g |
| 大豆 | 約2.6g | 約0.13g |
| 卵 | 約1.1g | 約0.055g |
1日の推奨量(3g)を食品から摂取するには:
- 鶏むね肉:約2.4kg
- 大豆:約2.3kg
食品からの摂取では、臨床研究で使用されている量(1.5〜3g)を摂取することは非常に困難です。HMBを意識的に摂取したい場合は、サプリメントを利用することが一般的です。
食品からの摂取のポイント:
- ロイシンを多く含むたんぱく質源(肉、魚、卵、大豆製品)を積極的に摂取する
- 運動後にたんぱく質を摂取することで、筋タンパク質合成を促進
- バランスの取れた食事を基本とし、必要に応じてサプリメントを併用
サプリメントとして摂取する場合は、HMBカルシウム塩(HMB-Ca)またはHMB遊離酸(HMB-FA)の形態で提供されている製品を選びます。信頼できるメーカーの製品を選び、製品の表示や推奨量に従うことが重要です。
