血糖値や腸内環境が気になる、食後の血糖値上昇を抑えたい、便通を改善したい、コレステロール値が気になる人に注目される水溶性食物繊維です。 グアーガム(部分加水分解グアーガム、PHGG)はグアー豆の胚乳部分から抽出される水溶性食物繊維で、食後血糖値の上昇抑制(糖質吸収遅延、胃内容排出遅延)、コレステロール低下作用(胆汁酸再吸収抑制、短鎖脂肪酸産生)、腸内環境改善(ビフィズス菌増加、短鎖脂肪酸産生)、便通改善(便量増加、蠕動運動促進)、満腹感向上に関与する臨床研究が報告されています。 日本では機能性表示食品として「便通を改善する」「食後の血糖値上昇を緩やかにする」機能性が認められており、臨床研究では5〜10g/日の摂取で2型糖尿病患者の血糖値(HbA1c)改善、腸内細菌叢改善、過敏性腸症候群(IBS)症状改善が確認されています。
- 主な働き:食後血糖値抑制、コレステロール低下、腸内環境改善、便通改善、満腹感向上
- 摂るタイミング:食事と一緒に5〜10g/日、1日2〜3回に分割摂取
- 相性:血糖降下薬・脂質異常症治療薬服用中は医師に相談、プロバイオティクスと相乗効果
- 注意:少量(2.5〜3g/日)から開始し徐々に増量、過剰摂取(20g以上)は下痢リスク
- 食品例:PHGG配合サプリメント(粉末・錠剤・カプセル)、機能性表示食品、通常の食事からは摂取困難
グアーガムとは
グアーガム(Guar Gum)は、グアー豆(Cyamopsis tetragonoloba)という豆科植物の種子の胚乳部分から抽出される水溶性食物繊維です。主にインドやパキスタンで栽培されており、古くから食品添加物として増粘剤・安定剤として使用されてきました。
部分加水分解グアーガム(PHGG): 健康食品やサプリメントとして使用されるのは、グアーガムを酵素で部分的に分解した**PHGG(Partially Hydrolyzed Guar Gum、グアーガム分解物)**です。PHGGは通常のグアーガムと比較して、水に溶かしても粘度が低く飲みやすく、完全に水に溶けて透明な溶液を形成する特徴があります。また、大腸で腸内細菌により発酵されて短鎖脂肪酸を産生し、ビフィズス菌などの有益な腸内細菌の増殖を促進するプレバイオティクス効果を持ちます。
日本での認可: PHGGは日本で「スーパー食物繊維」として注目されており、機能性表示食品の成分として使用されています。「便通を改善する」「食後の血糖値上昇を緩やかにする」などの機能性表示が認められており、安全性と有効性が確認されています。
からだでの働きと科学的知見
食後血糖値の上昇抑制:
グアーガム(PHGG)の重要な働きの一つが、食後血糖値の上昇を緩やかにすることです。
血糖値抑制メカニズム: PHGGは小腸での糖質の吸収速度を遅らせ、血糖値の急激な上昇を抑制します。また、胃から小腸への食物の移動を遅らせることで糖質の吸収を緩徐化し、腸管での糖の取り込みを調節します。長期的な摂取により、インスリン感受性の改善にも寄与することが示されています。
臨床研究結果: 2型糖尿病患者を対象とした研究で、PHGGの摂取により空腹時血糖値、食後血糖値、HbA1cの改善が認められました。PubMed 食事と一緒に摂取することで、食後血糖値のピークが有意に低下します。ラット実験では、加水分解グアーガムが食後血糖値を低下させ、小腸での糖吸収速度を遅らせることが確認されており、この効果はPHGGが消化物の粘度を高めることに起因します。PubMed
コレステロール低下作用:
グアーガム(PHGG)は血中コレステロール値の改善に関与します。
コレステロール低下メカニズム: PHGGは腸管での胆汁酸の再吸収を阻害し、肝臓でのコレステロールから胆汁酸への変換を促進します。小腸でのコレステロールの吸収を減少させ、LDL受容体の発現を増加させることで血中LDLコレステロールを低下させます。さらに、大腸での発酵により産生される短鎖脂肪酸(特にプロピオン酸)が肝臓でのコレステロール合成を抑制します。
臨床試験結果: 高コレステロール血症患者を対象とした研究で、PHGG摂取により総コレステロールとLDLコレステロールが有意に低下し、HDLコレステロール(善玉コレステロール)は維持または上昇することが示されています。
腸内環境の改善(プレバイオティクス効果):
グアーガム(PHGG)はプレバイオティクスとして機能し、腸内細菌叢を改善します。
腸内細菌への作用: PHGGはビフィズス菌やラクトバチルス属などの有益菌の増殖を選択的に促進します。これらの腸内細菌による発酵により、酪酸、プロピオン酸、酢酸などの短鎖脂肪酸(SCFA)が産生され、大腸の健康維持に寄与します。SCFAの産生により腸内pHが低下し、有害菌の増殖を抑制するとともに、アンモニア、インドール、スカトールなどの有害物質の産生も抑制されます。
臨床研究結果: 健康な成人20名を対象とした9週間のPAGODA試験では、PHGG摂取により腸内細菌叢の組成と機能が改善し、プレバイオティクス効果が確認されました。PubMed 別のランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、PHGG反復摂取により便の特性が改善し、腸内細菌叢が有益な方向に変化することが示されました。PubMed また、健康な成人を対象とした8週間の試験では、PHGG摂取により腸内細菌叢が改善し、排便特性とQOL(生活の質)が向上しました。PubMed
便通改善・便秘解消:
グアーガム(PHGG)は便通の正常化に関与します。
便通改善メカニズム: PHGGは大腸での発酵により便のかさを増やし、水分保持能力により便を適度に柔らかく保ちます。また、腸の蠕動運動を活性化して消化管通過時間を適正化し、産生される短鎖脂肪酸が大腸粘膜を刺激して蠕動運動を促進します。
双方向性の作用: PHGGは便量増加と蠕動運動促進により便秘を改善する一方で、便の形状を整えることで下痢症状も緩和します(ただし、効果は便秘改善ほど顕著ではありません)。
臨床研究結果: 過敏性腸症候群(IBS)患者を対象としたランダム化臨床試験では、PHGG 6g/日の摂取により、腹部膨満感などのIBS症状が改善し、便通が正常化することが示されました。PubMed また、2024年6月には、PHGGを配合した日本初の「便通+血糖のダブル機能性表示食品」が発売されています。
満腹感の向上・体重管理:
グアーガム(PHGG)は満腹感の持続と食欲調節に関与します。
満腹感メカニズム: PHGGは胃から小腸への食物の移動を遅らせて満腹感を持続させます。また、GLP-1などの満腹ホルモンの分泌を促進し、食後血糖値の急激な変動を抑制することで空腹感の発生を遅らせます。
メタボリックシンドローム改善: グアーガム(PHGG)はメタボリックシンドロームの複数の要素に作用します。空腹時血糖値、食後血糖値、HbA1cを低下させ、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪の改善に関与します。一部の研究では血圧の低下も報告されており、満腹感の向上によりカロリー摂取の減少にも寄与します。
摂り方とタイミング
グアーガム(PHGG)の臨床研究では、一般的な用量として5g〜10g/日が使用されています。目的に応じて、血糖値管理には5g〜10g/日(食事と一緒に)、便秘改善には5g〜10g/日、コレステロール低下には10g〜15g/日、腸内環境改善には3g〜5g/日が用いられています。日本の機能性表示食品では、1日あたり5g〜6gの摂取が推奨されることが多いです。
摂取タイミング: 血糖値やコレステロールへの効果を得るためには、食事と一緒に摂取することが重要です。1日量を2〜3回の食事に分けて摂取すると効果が持続しやすくなります。腸内環境改善や便通改善の効果を得るには、少なくとも数週間〜数ヶ月の継続摂取が推奨されます。
栄養素どうしの関係と注意点
一般的な副作用: 摂取開始初期や高用量摂取時に、腹部膨満感、ガス、軟便などの消化器症状が生じることがあります。これらの症状は腸内細菌による発酵が原因であり、通常は軽度で一過性です。
摂取量の調整: 少量(例: 2.5g〜3g/日)から始めて、消化器症状の様子を見ながら徐々に増量することが推奨されます。過剰摂取(1日20g以上)は下痢や腹部不快感のリスクを高める可能性があります。
特別な注意が必要な方: 炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)の急性期や腸閉塞の既往がある方は医師に相談してください。糖尿病治療薬服用中の方は、血糖値を低下させる作用があるため、血糖降下薬との併用時は血糖値のモニタリングが必要です。妊娠・授乳中の方は、安全性データが豊富ですが、摂取前に医師に相談することが推奨されます。
薬剤との相互作用: 血糖降下薬との併用により血糖値がさらに低下する可能性があるため、用量調整が必要な場合があります。脂質異常症治療薬との併用では、相乗効果によりコレステロール値が過度に低下する可能性があるため、モニタリングが推奨されます。
品質管理: 信頼できるメーカーの製品を選択し、PHGG含有量が明記されている製品を選んでください。日本では機能性表示食品や特定保健用食品(FOSHU)として認可された製品が多数市販されています。
食品から摂るには
グアーガム(部分加水分解グアーガム、PHGG)は、グアー豆から抽出される食物繊維ですが、通常の食事から十分な量を摂取することは困難です。
PHGGの摂取方法:
サプリメント形態: PHGGサプリメントには、水や飲料に溶かして摂取できる無味無臭の粉末タイプ、携帯に便利で摂取量の管理がしやすい錠剤・カプセルタイプがあります。日本では多くのPHGG配合製品が機能性表示食品として市販されています。
日常での取り入れ方: 糖質や脂質を含む食事の前または食事中に摂取すると、血糖値やコレステロールへの効果が期待できます。粉末タイプは水、お茶、コーヒー、味噌汁などに溶かして摂取でき、加熱に強いためスープやシチュー、カレーなどに加えても成分が損なわれません。
選び方のポイント: PHGG含有量が明記されている製品を選んでください。機能性表示食品や特定保健用食品(FOSHU)マークのある製品は、安全性と有効性が確認されています。添加物が少ない製品を選ぶことも重要です。
グアー豆を含む食品: グアー豆自体は日本では一般的ではありませんが、グアーガムは食品添加物として増粘剤・安定剤に使用されています。アイスクリーム、ヨーグルト、ドレッシング、ソースなどに含まれることがあります。
ただし、食品添加物として使用されるグアーガムは、サプリメントとして使用されるPHGG(部分加水分解グアーガム)とは異なり、健康効果を得るには不十分です。
