抗酸化と解毒が気になる人に注目される体内で最も重要な抗酸化物質です。 グルタチオン(glutathione、GSH)は、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸から構成されるトリペプチドで、細胞の抗酸化防御、解毒、免疫機能との関連で広く研究されています。 2022年に発表されたランダム化臨床試験では、高齢2型糖尿病患者125名を対象に、経口グルタチオン500mg/日を6ヶ月間摂取させたところ、血中グルタチオン濃度が増加し、酸化ストレスマーカー(8-OHdG)が有意に減少したと報告されました。
- 主な働き:抗酸化作用、解毒作用(肝臓)、免疫機能サポート、細胞保護
- 摂るタイミング:空腹時または食事と共に、1日あたり250〜1,000mg
- 相性:ビタミンC、ビタミンE、NAC(N-アセチルシステイン)、αリポ酸
- 注意:吸入療法は喘息悪化リスクあり(経口摂取は安全)
- 食品例:アスパラガス、ブロッコリー、アボカド、ほうれん草
グルタチオンとは
グルタチオン(glutathione、GSH)は、グルタミン酸、システイン、グリシンの3つのアミノ酸から構成されるトリペプチドで、体内のほぼすべての細胞に存在します。特に肝臓に高濃度で存在し、解毒作用において中心的な役割を果たします。
グルタチオンは、「マスター抗酸化物質」と呼ばれ、細胞を酸化ストレスから保護する最も重要な物質の一つです。還元型グルタチオン(GSH)と酸化型グルタチオン(GSSG)の2つの形態が存在し、GSHが活性型として抗酸化作用を発揮します。
グルタチオンは、体内で合成されますが、加齢、ストレス、疾患、栄養不良などにより合成能力が低下します。特に、システインがグルタチオン合成の律速段階であるため、システインの供給がグルタチオン濃度に大きく影響します。
従来、経口摂取したグルタチオンは消化管で分解されるため、体内グルタチオン濃度を高めることは困難とされてきました。しかし、近年の研究では、経口グルタチオン摂取により血中および組織のグルタチオン濃度が増加することが複数の臨床試験で確認されています。
臨床研究では、1日あたり250〜1,000mgの摂取が一般的に用いられており、抗酸化作用、肝機能、免疫機能との関連が評価されています。
からだでの働きと科学的知見
グルタチオンは、抗酸化作用、解毒作用、免疫機能、肝機能との関連で研究されています。
高齢2型糖尿病患者への抗酸化作用
2022年に発表されたランダム化臨床試験(Nutrients誌)では、高齢2型糖尿病患者125名を対象に、経口グルタチオン500mg/日を6ヶ月間摂取させました。その結果、以下の効果が確認されました:
- 血中グルタチオン濃度が有意に増加
- 酸化ストレスマーカー(8-OHdG)が3ヶ月以内に有意に減少
- HbA1cの改善傾向
この研究により、長期的なグルタチオン摂取が酸化ダメージからの保護とHbA1cの改善に関与する可能性が示されました。PubMed
経口摂取による体内グルタチオン濃度の増加
2014年に発表されたランダム化比較試験(European Journal of Nutrition誌)では、健康な成人を対象に、経口グルタチオン250mg/日または1,000mg/日を6ヶ月間摂取させました。その結果、以下の改善が確認されました:
- 高用量群(1,000mg/日)では、赤血球、血漿、リンパ球のグルタチオン濃度が30〜35%増加
- 口腔粘膜細胞では260%増加
- グルタチオンペルオキシダーゼ活性が増加
この研究により、経口グルタチオン摂取が体内グルタチオン貯蔵量を増加させることが実証されました。PubMed
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)への関与
2024年の文献レビューでは、2014〜2024年のNAFLD患者へのグルタチオン療法を検討した研究が包括的にまとめられました。グルタチオンは、酸化ストレスを軽減し、レドックスバランスを維持し、肝機能を改善する有望な可能性を示しています。
慢性心不全への関与(2025年新発見)
2025年1月に生理学研究所が発表した研究では、酸化型グルタチオン(GSSG)が慢性心不全の予後を改善することが発見されました。従来、還元型グルタチオン(GSH)の抗酸化作用が注目されていましたが、GSSGはDrp1タンパク質のグルタチオン化を通じてミトコンドリア機能を調節し、心機能を保護することが明らかになりました。
グルタチオンの主要な働き
グルタチオンは、以下の複数のメカニズムで細胞を保護します:
- 抗酸化作用:活性酸化種(ROS)を除去し、過酸化水素や脂質過酸化物を還元します。グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)の補酵素として機能します。また、UVB照射による酸化ストレスとメラニン生成を抑制し、皮膚を保護する可能性が研究されています。PubMed 皮膚の美白効果も報告されており、L-システインとの併用により、シミの減少と皮膚の明るさ向上に関与することが示されています。PubMed
- 解毒作用:薬物、異物、重金属などを抱合(グルタチオン抱合)して水溶性化し、体外へ排出します。肝臓の第II相解毒酵素系の中心的な役割を果たします。
- 細胞内レドックス環境の維持:GSH/GSSG比を維持し、細胞のチオール環境を保護します。
- 免疫機能のサポート:リンパ球の機能を維持し、免疫応答を調節します。リポソーム型グルタチオンの摂取により、血中グルタチオンレベルが40%、赤血球で25%、末梢血単核細胞(PBMC)で100%増加し、NK細胞の細胞毒性が向上することが報告されています。PubMed
- ビタミンC・Eの再生:酸化されたビタミンC・Eを還元型に戻し、抗酸化ネットワークを維持します。
| 研究テーマ | エビデンス強度 | 補足 |
|---|---|---|
| 2型糖尿病・酸化ストレス | 中 | 6ヶ月RCT(125名)、8-OHdG減少PubMed |
| 経口摂取での体内増加 | 高 | 6ヶ月RCT、赤血球・血漿で30-35%増PubMed |
| NAFLD肝機能 | 低〜中 | 2024年文献レビュー、酸化ストレス軽減 |
| 慢性心不全 | 低〜中 | 2025年発見、GSSG による心機能保護 |
摂り方とタイミング
グルタチオンの推奨量は、臨床研究で使用された量に基づき、1日あたり250〜1,000mg程度とされています。
- 一般的な健康維持:250〜500mg/日
- 抗酸化・代謝サポート:500〜1,000mg/日
- 肝機能サポート:500〜1,000mg/日
空腹時または食事と共に摂取することが一般的にすすめられます。空腹時に摂取すると吸収率が高まる可能性がありますが、胃腸への負担が懸念される場合は、食事と共に摂取することが推奨されます。
グルタチオンの体内濃度を高めるには、以下の3つの方法があります:
- グルタチオンを直接摂取:リポソーム型グルタチオンやS-アセチルグルタチオンなど、吸収率を高めた製品が推奨されます。
- 前駆体を摂取:NAC(N-アセチルシステイン)、システイン、グリシン、グルタミン酸を摂取することで、体内でのグルタチオン合成を促進します。NACは最も研究されている前駆体です。NAC治療により肝臓のグルタチオンレベルが維持され、虚血再灌流障害の予防に関与することが研究で示されています。PubMed
- グルタチオン合成を促進する栄養素:セレン(グルタチオンペルオキシダーゼの補因子)、ビタミンB6、B12、葉酸、αリポ酸などを併用します。
臨床研究では3〜6ヶ月程度の継続摂取で評価されており、即効性を期待するよりも、継続的な使用で緩やかな変化を見守る姿勢が適切です。
栄養素どうしの関係と注意点
グルタチオンは他の栄養素との組み合わせで相乗効果が期待できます。
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| NAC(N-アセチルシステイン) | ◎ | グルタチオン合成の前駆体 |
| ビタミンC | ◎ | グルタチオンがビタミンCを再生、相互作用 |
| ビタミンE | ○ | 抗酸化ネットワークの形成 |
| αリポ酸 | ○ | グルタチオン濃度を高める |
| セレン | ○ | グルタチオンペルオキシダーゼの補因子 |
注意点として、グルタチオンは一般的には安全性が高いとされていますが、以下の点に注意が必要です:
- 吸入療法:グルタチオンの吸入療法は、喘息患者で気管支収縮を引き起こす可能性があります。経口摂取は安全です。
- 消化器症状:高用量(1,000mg以上)では、まれに胃腸の不快感、腹部膨満感が報告されています。
- アレルギー:まれにアレルギー反応が報告されています。
- 妊娠中・授乳中:安全性に関する十分なデータがないため、妊娠中・授乳中の方は医師に相談することが推奨されます。
- 薬物代謝への影響:グルタチオンは薬物代謝に関与するため、特定の薬剤(化学療法薬など)との相互作用が懸念されます。薬を服用している方は医師に相談することが推奨されます。
食品から摂るには
グルタチオンは、野菜、果物、肉類、魚類に含まれていますが、含有量は限られており、また調理により減少します。
| 食品 | グルタチオン含有量(100gあたり) |
|---|---|
| アスパラガス | 約28mg |
| アボカド | 約27mg |
| ほうれん草(生) | 約12mg |
| ブロッコリー(生) | 約8mg |
| トマト | 約7mg |
| ニンニク | 約13mg |
| 牛レバー | 約15mg |
1日の推奨量(500mg)を食品から摂取するには:
- アスパラガス:約1.8kg
- アボカド:約1.9kg
食品からの摂取では、臨床研究で使用されている量(250〜1,000mg)を摂取することは非常に困難です。また、グルタチオンは加熱により減少するため、生で摂取できる野菜や果物を選ぶことが推奨されます。
食品からの摂取のポイント:
- アスパラガス、アボカド、ブロッコリーなどの硫黄化合物を含む野菜を積極的に摂取
- 生で摂取できる野菜や果物を選ぶ(加熱で減少)
- システイン(グルタチオン合成の前駆体)を多く含む食品(鶏肉、卵、ヨーグルトなど)を摂取
- NAC(N-アセチルシステイン)サプリメントの併用
グルタチオンを意識的に摂取したい場合、特に抗酸化作用や肝機能サポートを目的とする場合は、サプリメントを利用することが一般的です。リポソーム型グルタチオンやS-アセチルグルタチオンなど、吸収率を高めた製品を選ぶことが推奨されます。
