ジヒドロケルセチンとは
ジヒドロケルセチン(Dihydroquercetin)は、**タキシフォリン(Taxifolin)**とも呼ばれるフラボノイド化合物です。ケルセチンの還元型(ジヒドロ型)であり、ケルセチンと類似した構造を持ちながら、いくつかの点でより優れた特性を持つことが知られています。
主な供給源:
- カラマツ属(Larix属): シベリアカラマツなどの樹皮や木材に高濃度で含まれる
- ブドウの種: 少量含まれる
- 柑橘類: レモン、オレンジなどの果皮
- 玉ねぎ: 外皮に微量含まれる
ジヒドロケルセチンは、ケルセチンと比較して水溶性が高く、生体利用率(バイオアベイラビリティ)が優れているという特徴があります。また、他の抗酸化物質(ビタミンCやビタミンEなど)の効果を増強するシナジー効果を持つことも報告されています。
からだでの働きと科学的知見
ジヒドロケルセチンは、強力な抗酸化作用、心血管保護作用、抗炎症作用、肝臓保護・代謝改善、神経保護・認知機能サポートに関与します。
強力な抗酸化作用:
ジヒドロケルセチンの最も重要な働きの一つが、活性酸素種(ROS)の消去です。ヒドロキシラジカル、スーパーオキシドアニオン、過酸化脂質ラジカルなどを直接捕捉し、細胞膜のリン脂質が酸化されるのを防ぎ、膜の完全性を維持します。PubMed
また、鉄や銅などの金属イオンと結合し、フェントン反応による酸化ストレスを抑制します。さらに、グルタチオン、SOD(スーパーオキシドジスムターゼ)、カタラーゼなどの内因性抗酸化酵素の活性を高めることで、体内の抗酸化防御システムを強化します。
ジヒドロケルセチンは、ビタミンCの効果を増強しその消費を抑制し、ビタミンEと協働して脂質過酸化を抑制します。複数の抗酸化物質と併用することで、相乗的な抗酸化効果を発揮し、加齢に伴う酸化ストレスを軽減します。
心血管保護作用:
ジヒドロケルセチンは心臓と血管の健康維持に多面的に関与します。虚血再灌流障害に対する心保護効果を評価した研究では、ジヒドロケルセチンの前処置が心機能障害を著しく軽減し、フリーラジカルの消去、脂質過酸化の減少、抗酸化酵素活性の増加が確認されました。PubMed
心筋梗塞後の再灌流時に生じる酸化ストレスと炎症を抑制し、PI3K/Akt経路の活性化により心筋細胞の死を防ぎます。また、ER(小胞体)ストレス誘導性のアポトーシスを阻害し、心拍出量、左室駆出率などの心機能指標を改善します。
血管内皮細胞の健康を維持し、NO(一酸化窒素)産生を促進することで、血管柔軟性を維持し、動脈硬化による血管硬化を抑制します。NO産生促進と血管拡張作用により、血圧の健康的な維持に関与します。これらの作用により、酸化ストレスと炎症の抑制を通じて、心血管疾患のリスク因子を軽減する可能性があります。
抗炎症作用:
ジヒドロケルセチンは慢性炎症の軽減に関与します。TNF-α、IL-6、IL-1βなどの炎症性サイトカインの産生を減少させ、炎症反応の中心的な転写因子であるNF-κBの活性化を抑制します。PubMed
活性酸素種を減少させ、TXNIP-NLRP3インフラマソーム経路を阻害することで、神経や血管を傷つける炎症物質の産生を抑制します。また、M1型(炎症促進型)からM2型(炎症抑制型)へのマクロファージのシフトを促進します。これらの抗炎症作用により、関節炎、炎症性腸疾患などの炎症性疾患における炎症軽減をサポートする可能性があります。
肝臓保護・代謝改善:
ジヒドロケルセチンは肝臓の健康と脂質代謝の改善に関与します。動物実験では、肝臓への脂肪蓄積を抑制し、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の発症を防ぐことが確認されました。PubMed
慢性炎症と肝線維化の進行を抑制し、NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)後の肝腫瘍発生を効果的に防ぎます。また、脂質代謝を改善し、血中脂質プロファイルの健全化に寄与し、インスリン感受性の改善に関与する可能性があります。これらの作用により、血糖値の調節をサポートする可能性があります。
神経保護・認知機能サポート:
ジヒドロケルセチンは脳の健康維持と認知機能のサポートに関与する可能性があります。2025年に日本国立循環器病研究センターで実施予定の「タキシフォリンによる認知機能低下予防(T-COG trial)」は、タキシフォリンの認知機能への効果を評価する重要な臨床試験です。PubMed
糖尿病患者では認知症リスクが2〜3倍高いとされていますが、タキシフォリンは糖尿病刺激により活性化したミクログリア(脳の免疫細胞)において、TXNIP-NLRP3経路を抑制し、神経や血管を傷つける炎症物質の産生を抑制することが示されています。
脳組織は酸化ストレスに特に脆弱ですが、ジヒドロケルセチンの抗酸化作用が神経細胞を保護します。また、ミトコンドリアの機能を維持し、神経細胞のエネルギー産生をサポートします。PubMed 脳血管の健康維持により、血管性認知症のリスク軽減に寄与する可能性があります。動物実験およびin vitro研究では、抗腫瘍効果や一部のウイルス感染に対する保護効果も報告されています。
摂り方とタイミング
ジヒドロケルセチン(タキシフォリン)の臨床研究では、以下のような用量が使用されています。
- 一般的な用量: 50mg〜200mg/日
- 抗酸化サポート: 50mg〜100mg/日
- 心血管サポート: 100mg〜200mg/日
- 認知機能サポート: 臨床試験で評価中(用量は未公開)
サプリメント製品によって含有量が異なるため、製品ラベルの指示に従って摂取することが重要です。
摂取タイミング:
- 食事と一緒: 吸収率向上のため、食事と一緒に摂取することが推奨される
- 分割摂取: 1日量を2回に分けて摂取すると、血中濃度の安定化に寄与
- 継続摂取: 効果が現れるまでに数週間〜数ヶ月かかる場合があるため、継続的な摂取が推奨される
栄養素どうしの関係と注意点
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| ビタミンC | ◎ | 相乗効果で抗酸化作用が増強される |
| ビタミンE | ◎ | 脂質過酸化抑制の相乗効果が期待できる |
| 抗凝固薬 | △ | 出血リスクの可能性、医師に相談 |
| 血圧降下薬 | △ | 血圧低下の可能性、医師に相談 |
| 糖尿病治療薬 | △ | 血糖値に影響の可能性、医師に相談 |
ジヒドロケルセチンは一般的に安全性が高いと考えられていますが、以下の点に注意が必要です。
一般的な安全性:
- ジヒドロケルセチンは一般的に安全性が高いと考えられています
- 報告されている副作用は非常に少ない
特別な注意が必要な方:
- 妊娠・授乳中: 安全性データが不足しているため、医師に相談してください
- 薬剤服用中: 特に抗凝固薬、血圧降下薬、糖尿病治療薬を服用している場合は、医師に相談してください
- 手術予定: 出血リスクを考慮し、手術の2週間前には摂取を中止することが推奨される場合があります
薬剤との相互作用:
- 抗凝固薬: 出血リスクを高める可能性があるため注意が必要
- 血圧降下薬: 血圧を低下させる作用があるため、併用により血圧が過度に下がる可能性
- 糖尿病治療薬: 血糖値を低下させる可能性があるため、併用時は血糖値のモニタリングが必要
品質管理:
- 信頼できるメーカーの製品を選択し、シベリアカラマツ由来など、原料の供給源が明記されている製品を選ぶ
- 純度や含有量が明記されている製品を選択
食品から摂るには
ジヒドロケルセチン(タキシフォリン)は、一部の植物に天然に含まれていますが、その含有量は限定的です。
ジヒドロケルセチンを含む食品:
樹木:
- シベリアカラマツ(Larix sibirica): ジヒドロケルセチンの最も豊富な供給源で、樹皮や木材に高濃度で含まれる
- ダフリアカラマツ(Larix gmelinii): カラマツ属の樹木に豊富
果物:
- ブドウ: 種に少量含まれる
- 柑橘類: レモン、オレンジなどの果皮に微量含まれる
野菜:
- 玉ねぎ: 外皮に微量含まれる
食品からの摂取の限界:
通常の食事からジヒドロケルセチンを十分量摂取することは困難です。臨床研究で使用される用量(50~200mg/日)を食品から得るには、カラマツ樹皮などを大量に摂取する必要があり、現実的ではありません。
サプリメントの利用:
効率的にジヒドロケルセチンを摂取するには、シベリアカラマツ由来のサプリメントを利用することが推奨されます。サプリメントは、以下の形態で提供されています:
- カプセル・錠剤タイプ: 手軽に摂取できる、携帯に便利
- 粉末タイプ: 水やジュースに溶かして摂取、用量調整が容易
製品選択のポイント:
- 供給源の明記: シベリアカラマツ由来など、原料の供給源が明記されている製品を選択
- 純度と含有量: ジヒドロケルセチン(タキシフォリン)の含有量が明記されている製品を選択
- 品質管理: GMP認証など、品質管理体制が整ったメーカーの製品を選択
