ビフィズス菌とは
ビフィズス菌(Bifidobacterium)は、ヒトの腸内に常在する代表的な有益菌で、健康な成人の腸内細菌叢の約5~10%を占めています。1899年にフランスのパスツール研究所でティシエ(Tissier)博士により母乳栄養児の便から発見されて以来、120年以上にわたり研究されてきた歴史あるプロバイオティクスです。
ビフィズス菌は、グラム陽性の偏性嫌気性細菌で、酸素がある環境では生育できない特性を持ちます。腸内では主に大腸に存在し、乳酸と酢酸を産生することで腸内pHを低下させ、有害菌の増殖を抑制する役割があります。また、ビタミンB群の合成、免疫機能の調整、腸管バリア機能の維持にも関与すると考えられています。
代表的な菌株には、Bifidobacterium longum BB536、Bifidobacterium lactis HN019、Bifidobacterium breve、Bifidobacterium adolescentisなどがあり、それぞれ異なる健康効果が研究されています。
からだでの働きと科学的知見
ビフィズス菌は、便秘の改善、腸内環境のバランス維持、腸管バリア機能の強化、免疫機能の調整、ビタミンB群の合成に関与します。
便秘の改善:
ビフィズス菌の最も広く知られた効果は、便秘の改善を助ける可能性です。複数の臨床研究で、ビフィズス菌の摂取により、排便回数の増加、便の硬さの軟化、排便時の不快感の軽減が報告されています。PubMed
2024年10月にJAMA Network Open誌に掲載された多施設無作為化三重盲検プラセボ対照試験では、機能性便秘患者を対象に、Bifidobacterium lactis HN019を8週間摂取した結果、便秘症状の有意な改善が確認されました。また、2023年にGut Microbes誌に掲載された研究では、機能性便秘を持つ成人250名を対象とした4週間の無作為化二重盲検プラセボ対照試験で、ビフィズス菌(Bifidobacterium animalis subsp. lactis HN019)とラクトバチルス(Lacticaseibacillus rhamnosus HN001)の組み合わせにより、硬便の軽減、腸内細菌叢の改善が観察されました。PubMed
便秘改善のメカニズム:
ビオフェルミン製薬の研究により、ビフィズス菌による便秘改善の詳細なメカニズムが明らかになっています:
- 腸内菌叢の改善: ビフィズス菌が腸内菌叢の乱れを改善
- 酪酸の増加: 短鎖脂肪酸の一種である酪酸が増加
- 神経伝達物質の調整: セロトニン、アセチルコリンなどの神経伝達物質の分泌が改善
- 蠕動運動の促進: 腸の蠕動運動が活発化し、便秘が改善
このメカニズムは、ビフィズス菌が単に腸内環境を改善するだけでなく、腸-脳軸(gut-brain axis)を介して腸管運動にも影響を与えることを示しています。
腸内環境のバランス維持:
ビフィズス菌は、腸内で乳酸と酢酸を産生することで腸内pHを低下させ、大腸菌やウェルシュ菌などの有害菌の増殖を抑制します。PubMed また、ビフィズス菌自体が増えることで、腸内細菌叢の多様性とバランスの維持を助けます。
2023年のメタアナリシス(26件の無作為化試験、n=1,891)では、プロバイオティクス(特にビフィズス菌とラクトバチルス)が腸内細菌叢の構造を調整し、ビフィズス菌とラクトバチルスの増加を促進することが確認されました。
腸管バリア機能の強化:
2023年に発表された系統的レビュー・メタアナリシスでは、プロバイオティクス(特にビフィズス菌を含む製剤)が腸管バリア機能を有意に改善することが示されました。PubMed 具体的には以下の指標で改善が認められました:
- TER(経上皮電気抵抗)の向上: 腸管上皮の密着性が向上
- 血清ゾヌリン(zonulin)の低下: 腸管透過性のマーカーが改善
- エンドトキシン・LPS(リポポリサッカライド)の低下: 腸管からの有害物質漏出が減少
これらの結果は、ビフィズス菌が「リーキーガット(腸管透過性亢進)」の抑制を助ける可能性を示しています。
免疫機能の調整:
ビフィズス菌は、腸管免疫系に作用し、免疫機能の調整を助ける可能性が報告されています。PubMed ヒトの体内で最大の免疫器官である腸管を刺激することで、以下の効果が期待されています:
- 感染防御: 病原菌の侵入を防ぐ
- 免疫バランスの調整: 過剰な免疫反応を抑制し、アレルギー症状の軽減を助ける可能性
- 炎症性サイトカインの抑制: CRP、TNF-α、IL-6などの炎症マーカーを減少
2023年のメタアナリシスでは、プロバイオティクス群が炎症因子(CRP、TNF-α、IL-6)の減少において対照群と比較して優れた効果を示したことが報告されています。
ビタミンB群の合成:
ビフィズス菌は、腸内でビタミンB群(特にビタミンB1、B2、B6、B12、葉酸、ナイアシン)を合成する能力があります。PubMed これにより、体内でのビタミンB群の供給を助ける可能性があります。
摂り方とタイミング
ビフィズス菌のサプリメントでは、一般的に10億~500億CFU/日程度が使用されています。臨床研究では以下の範囲で効果が確認されています:
- 便秘改善: 10億~100億CFU/日
- 腸内環境改善: 10億~500億CFU/日
- 免疫機能調整: 10億~100億CFU/日
菌株により推奨量が異なる場合があるため、製品の推奨に従うことが重要です。また、効果の発現には通常2~8週間程度の継続摂取が必要とされています。
食品から摂るには
ビフィズス菌は、主に発酵乳製品に含まれています。
ビフィズス菌を含む食品:
- ヨーグルト: ビフィズス菌入りヨーグルト(製品により菌株が異なる)
- 森永「ビヒダスヨーグルト」(BB536株)
- 森永乳業「ラクトフェリンヨーグルト」
- グリコ「BifiXヨーグルト」(GCL2505株)
- ダノン「BIOヨーグルト」
- 乳酸菌飲料: 一部の製品にビフィズス菌が添加されています
- サプリメント: カプセル、錠剤、粉末タイプが一般的
食品選択のポイント:
ビフィズス菌は酸素に弱い偏性嫌気性菌のため、製品により生菌数や腸到達性が異なります。「生きて腸まで届く」と表示された製品や、臨床研究で効果が確認された特定菌株(BB536、HN019など)を含む製品を選択することが推奨されます。
また、ビフィズス菌の餌となるオリゴ糖や食物繊維を一緒に摂取することで、腸内でのビフィズス菌の増殖を助ける可能性があります。
栄養素どうしの関係と注意点
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| オリゴ糖 | ◎ | ビフィズス菌の餌となり増殖を促進 |
| 食物繊維 | ◎ | 腸内でのビフィズス菌の増殖を助ける |
| 抗生物質 | △ | 服用時間を2~3時間ずらすことを推奨 |
ビフィズス菌は一般的に安全性の高いプロバイオティクスとされていますが、以下の点に注意が必要です。
初期の消化器症状:
プロバイオティクス摂取開始時に、一時的に以下の症状が生じる可能性があります:
- 腹部膨満感(お腹の張り)
- ガス(おなら)の増加
- 軽度の腹鳴(お腹がゴロゴロ鳴る)
これらの症状は、通常1~2週間程度で腸内細菌叢が適応し、軽減することが多いです。症状が強い場合は、摂取量を減らすか、一時中止を検討してください。
免疫抑制状態:
免疫抑制療法を受けている方や重篤な免疫不全がある方は、プロバイオティクスの使用前に医療専門家に相談してください。一般的にビフィズス菌は安全とされていますが、免疫系が著しく低下している場合は注意が必要です。
乳アレルギー:
乳製品由来のビフィズス菌製品の場合、微量の乳成分が残存する可能性があります。重度の乳アレルギーがある方は、製品の成分表示を確認するか、医療専門家に相談してください。
妊娠・授乳中:
妊娠中や授乳中の安全性については、一般的なプロバイオティクスとして問題ないとされていますが、特定の菌株での十分なデータがない場合があります。使用前に医療専門家に相談することが推奨されます。
抗生物質との併用:
抗生物質とプロバイオティクスを併用する場合は、服用時間を2~3時間ずらすことが推奨されます。抗生物質はビフィズス菌も殺菌する可能性があるため、効果が減弱する可能性があります。
重篤な消化器疾患:
炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)や腸閉塞などの重篤な消化器疾患がある方は、使用前に医療専門家に相談してください。
