プロバイオティクス

バチルス・コアギュランス(有胞子性乳酸菌)|過敏性腸症候群と腸内環境が気になる人の耐熱性プロバイオティクス

過敏性腸症候群(IBS)や腸内環境が気になる方に向けて、バチルス・コアギュランス(有胞子性乳酸菌)が腹痛・膨満感・腸内細菌叢にどのように関与するかを、臨床研究の科学的根拠と共に解説します。

※ 主な作用: 腸内環境改善、消化サポート

バチルス・コアギュランス(有胞子性乳酸菌)|過敏性腸症候群と腸内環境が気になる人の耐熱性プロバイオティクス
摂取基準値
RDA(推奨量)CFU
AI(目安量)CFU
UL(耐容上限量)CFU

日本人の食事摂取基準では基準値未設定

参考値

1,000,000,0002,000,000,000 cfu(出典: プロバイオティクス研究芽胞形成性乳酸菌。10億〜20億CFU

バチルス・コアギュランスとは

バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)は、芽胞(spore)を形成する能力を持つ有胞子性乳酸菌で、高い耐熱性と胃酸耐性を特徴とするプロバイオティクスです。近年の分類学的研究により、一部の菌株は新しい属名「Heyndrickxia coagulans」または「Weizmannia coagulans」に再分類されていますが、機能的には従来のBacillus coagulansと同様の特性を持ちます。

一般的な乳酸菌(Lactobacillus属やBifidobacterium属)と異なり、バチルス・コアギュランスは芽胞を形成することで、製造・保存・輸送時の熱や乾燥、胃酸や胆汁酸などの消化液に対して高い安定性を示します。腸管に到達後、芽胞が発芽して活性型の細胞となり、乳酸を産生して腸内環境の健康維持に関与すると考えられています。

近年、特に過敏性腸症候群(IBS: Irritable Bowel Syndrome)の症状改善を助ける可能性が、複数の臨床試験で報告されています。

からだでの働きと科学的知見

バチルス・コアギュランスは、過敏性腸症候群の症状軽減、腸内細菌叢のバランス維持、短鎖脂肪酸産生の促進、腸内腐敗産物の減少に関与します。

過敏性腸症候群(IBS)の症状軽減:

バチルス・コアギュランスの最も注目されている作用は、過敏性腸症候群(IBS)の症状軽減です。PubMed IBSは、腹痛、腹部膨満感、下痢、便秘などの症状が慢性的に繰り返される機能性消化管障害で、QOL(生活の質)に大きな影響を与えます。

2024年の多施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、IBS患者100名を対象に、Bacillus coagulans BCP92株の効果が評価され、IBS重症度スコアが統計的に有意に減少しました。PubMed

2023年の試験では、IBS患者123名を対象に、Bacillus coagulans BC300株の16週間摂取により、52.9%でIBS-SSS総スコアが有意に改善し(p=0.005、オッズ比4.6)、排便満足度が向上しました。PubMed

2023年のネットワークメタアナリシスでは、81件の無作為化試験(9,253名参加)を解析し、Bacillus coagulans MTCC 5856(SUCRA 96.9%)とBacillus coagulans Unique IS2(SUCRA 92.6%)が、腹痛改善において最も効果的なプロバイオティクスの一つとして評価されました。PubMed

腸内細菌叢のバランス維持:

バチルス・コアギュランスは、腸内で乳酸を産生することで腸内pHを低下させ、有害菌の増殖を抑制する一方、ビフィズス菌などの有益菌の増殖を促進する可能性が報告されています。2024年の臨床研究では、Weizmannia coagulans SANK 70258の摂取により、腸内のビフィズス菌が増加し、腸内腐敗産物(インドール、p-クレゾール、アンモニアなど)が減少することが確認されました。PubMed

短鎖脂肪酸産生の促進:

2024年の研究では、イヌリン(プレバイオティクス)とBacillus coagulans Lactosporeの組み合わせにより、腸内での酪酸(butyric acid)やアセテート(acetic acid)などの短鎖脂肪酸産生が増加することが示されました。PubMed酪酸は、大腸上皮細胞の主要なエネルギー源で、腸管バリア機能の維持や抗炎症作用に関与すると考えられています。

胃酸・胆汁酸耐性:

芽胞を形成するバチルス・コアギュランスは、一般的な乳酸菌と比較して、胃酸や胆汁酸に対する耐性が高く、生きたまま腸管に到達する可能性が高いとされています。腸管に到達後、芽胞が発芽して活性型の細胞となり、プロバイオティクス効果を発揮します。

腸内腐敗産物の減少:

2024年の臨床試験では、Heyndrickxia coagulans SANK70258の摂取により、腸内腐敗産物および終末糖化産物(AGEs)が減少することが確認されました。また、肌状態の改善効果も観察され、腸-皮膚軸(gut-skin axis)を介した作用の可能性が示唆されています。

摂り方とタイミング

バチルス・コアギュランスのサプリメントでは、一般的に10億~200億CFU/日程度が使用されています。臨床研究では以下の範囲で効果が確認されています:

  • IBS症状改善: 10億~150億CFU/日
  • 腸内環境改善: 10億CFU/日以上

菌株により推奨量が異なる場合があるため、製品の推奨に従うことが重要です。また、効果の発現には通常4~12週間程度の継続摂取が必要とされています。

食品から摂るには

バチルス・コアギュランスは、一部の発酵食品に含まれることがありますが、通常の食品からの摂取は限定的です。

バチルス・コアギュランスを含む可能性のある食品:

  • 一部のヨーグルト: 特定のプロバイオティクスヨーグルトに添加されている場合があります
  • 発酵飲料: 一部の健康飲料に添加されています
  • 栄養補助食品: カプセルや粉末タイプのサプリメントが一般的

バチルス・コアギュランスは天然の食品に豊富に含まれているわけではないため、効率的に摂取するにはプロバイオティクスサプリメントを利用することが推奨されます。

栄養素どうしの関係と注意点

組み合わせ 推奨度 コメント
酵母細胞壁 短鎖脂肪酸産生を相乗的に促進
抗生物質 服用時間を2~3時間ずらすことを推奨
免疫抑制薬 免疫抑制療法中は医師に相談

バチルス・コアギュランスは一般的に安全性の高いプロバイオティクスとされていますが、以下の点に注意が必要です。

初期の消化器症状:

プロバイオティクス摂取開始時に、一時的に腹部膨満感、ガスの増加、軽度の腹鳴が生じる可能性があります。通常1~2週間程度で腸内細菌叢が適応し、軽減することが多いです。症状が強い場合は、摂取量を減らすか、一時中止を検討してください。

免疫抑制状態:

免疫抑制療法を受けている方や重篤な免疫不全がある方は、プロバイオティクスの使用前に医療専門家に相談してください。

妊娠・授乳中:

妊娠中や授乳中の安全性については、一般的なプロバイオティクスとして問題ないとされていますが、使用前に医療専門家に相談することが推奨されます。

抗生物質との併用:

抗生物質とプロバイオティクスを併用する場合は、服用時間を2~3時間ずらすことが推奨されます。

アレルギー:

乳製品由来の培地で培養された菌株の場合、微量の乳成分が残存する可能性があります。重度の乳アレルギーがある方は、製品の成分表示を確認するか、医療専門家に相談してください。

重篤な消化器疾患:

炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)や腸閉塞などの重篤な消化器疾患がある方は、使用前に医療専門家に相談してください。

よくある質問

Q. バチルス・コアギュランスはどんな人に推奨されますか?

過敏性腸症候群(IBS)の症状(腹痛、腹部膨満感、便通の乱れ)が気になる方、腸内環境を改善したい方に推奨されます。2023年のネットワークメタアナリシスでは、81件の試験(9,253名参加)の中で腹痛改善において最も効果的なプロバイオティクスの一つと評価されています。

Q. 他の乳酸菌と何が違いますか?

バチルス・コアギュランスは芽胞を形成するため、一般的な乳酸菌(Lactobacillus属やBifidobacterium属)と比較して、胃酸や胆汁酸、熱に対する耐性が高く、生きたまま腸管に到達する可能性が高いとされています。

Q. 効果が出るまでどのくらいかかりますか?

臨床研究では、通常4~12週間程度の継続摂取で効果が確認されています。個人差があるため、継続的な摂取が推奨されます。

Q. 抗生物質と一緒に飲んでも大丈夫ですか?

抗生物質とプロバイオティクスを併用する場合は、服用時間を2~3時間ずらすことが推奨されます。バチルス・コアギュランスは芽胞形成により一部の抗生物質に対して耐性を持つ可能性がありますが、念のため時間をずらすことが推奨されます。

Q. 副作用はありますか?

臨床試験では重篤な有害事象は報告されていません。摂取開始時に一時的に腹部膨満感やガスの増加が生じる可能性がありますが、通常1~2週間程度で軽減します。

Q. 保存方法に注意が必要ですか?

芽胞を形成するため、一般的な乳酸菌と比較して保存安定性が高いですが、製品の推奨に従い、直射日光や高温多湿を避けて保存することが推奨されます。

本ページは公開資料や専門書を参考に要約した成分ガイドです。サプリメントを使用する際は医師・薬剤師など専門家の助言もあわせてご確認ください。