過敏性腸症候群(IBS)で腹痛や膨満感が続く、腸内環境を底上げしたい人に注目されているプロバイオティクスです。 バチルス・コアギュランス(有胞子性乳酸菌)は芽胞を形成するため、胃酸や熱に強く生きたまま腸に届きやすい特性を持ちます。 過敏性腸症候群の症状軽減や腸内細菌叢のバランス改善に関する臨床研究が報告されており、耐熱性プロバイオティクスとして活用されています。
- 主な働き:IBS症状軽減、腸内細菌叢バランス維持、短鎖脂肪酸産生促進
- 摂るタイミング:1日10億~200億CFU、食前または食後
- 相性:食物繊維・他のプロバイオティクスと腸内環境を多面的にサポート
- 注意:抗生物質使用時は2-3時間ずらす、免疫抑制療法中は医師に相談
- 食品例:プロバイオティクスヨーグルト、発酵飲料、カプセルサプリ
バチルス・コアギュランスとは
バチルス・コアギュランス(Bacillus coagulans)は、芽胞(spore)を形成する能力を持つ有胞子性乳酸菌で、高い耐熱性と胃酸耐性を特徴とするプロバイオティクスです。近年の分類学的研究により、一部の菌株は新しい属名「Heyndrickxia coagulans」または「Weizmannia coagulans」に再分類されていますが、機能的には従来のBacillus coagulansと同様の特性を持ちます。
一般的な乳酸菌(Lactobacillus属やBifidobacterium属)と異なり、バチルス・コアギュランスは芽胞を形成することで、製造・保存・輸送時の熱や乾燥、胃酸や胆汁酸などの消化液に対して高い安定性を示します。腸管に到達後、芽胞が発芽して活性型の細胞となり、乳酸を産生して腸内環境の健康維持に関与すると考えられています。PubMed
近年、特に過敏性腸症候群(IBS: Irritable Bowel Syndrome)の症状改善を助ける可能性が、複数の臨床試験で報告されています。
からだでの働きと科学的知見
過敏性腸症候群(IBS)の症状軽減がバチルス・コアギュランスの最も注目される作用です。2024年の多施設無作為化二重盲検プラセボ対照試験では、IBS患者100名を対象にBacillus coagulans BCP92株の効果が評価され、IBS重症度スコアが統計的に有意に減少しました。PubMed2023年の試験では、IBS患者123名を対象に、Bacillus coagulans BC300株の16週間摂取により、52.9%でIBS-SSS総スコアが有意に改善し(p=0.005、オッズ比4.6)、排便満足度が向上しました。PubMed
2023年のネットワークメタアナリシスでは、81件の無作為化試験(9,253名参加)を解析し、Bacillus coagulans MTCC 5856(SUCRA 96.9%)とBacillus coagulans Unique IS2(SUCRA 92.6%)が、腹痛改善において最も効果的なプロバイオティクスの一つとして評価されました。PubMed腸内細菌叢のバランス維持にも貢献し、2024年の臨床研究では、Weizmannia coagulans SANK 70258の摂取により、腸内のビフィズス菌が増加し、腸内腐敗産物(インドール、p-クレゾール、アンモニアなど)が減少することが確認されました。PubMed
短鎖脂肪酸産生の促進も重要な働きです。2024年の研究では、イヌリン(プレバイオティクス)とBacillus coagulans Lactosporeの組み合わせにより、腸内での酪酸(butyric acid)やアセテート(acetic acid)などの短鎖脂肪酸産生が増加することが示されました。PubMed芽胞を形成するバチルス・コアギュランスは、一般的な乳酸菌と比較して胃酸や胆汁酸に対する耐性が高く、生きたまま腸管に到達しやすいことが特徴です。
摂り方とタイミング
バチルス・コアギュランスのサプリメントでは、一般的に10億~200億CFU/日程度が使用されています。IBS症状改善には10億~150億CFU/日、腸内環境改善には10億CFU/日以上が臨床研究で使用されてきました。 菌株により推奨量が異なる場合があるため、製品の推奨に従うことが重要です。効果の発現には通常4~12週間程度の継続摂取が必要とされており、食前または食後のどちらでも摂取できます。 抗生物質と併用する場合は、服用時間を2~3時間ずらすことで菌の生存率を高められます。
食品から摂るには
バチルス・コアギュランスは、一部の発酵食品に含まれることがありますが、通常の食品からの摂取は限定的です。 特定のプロバイオティクスヨーグルトに添加されている場合があるほか、一部の健康飲料にも含まれています。 最も一般的な摂取方法はカプセルや粉末タイプのサプリメントです。
バチルス・コアギュランスは天然の食品に豊富に含まれているわけではないため、効率的に摂取するにはプロバイオティクスサプリメントを利用することが推奨されます。
栄養素どうしの関係と注意点
| 組み合わせ | 推奨度 | コメント |
|---|---|---|
| バチルス・コアギュランス×酵母細胞壁 | ○ | 短鎖脂肪酸産生を相乗的に促進 |
| バチルス・コアギュランス×抗生物質 | △ | 服用時間を2~3時間ずらすことを推奨 |
| バチルス・コアギュランス×免疫抑制薬 | △ | 免疫抑制療法中は医師に相談 |
バチルス・コアギュランスは一般的に安全性の高いプロバイオティクスとされていますが、以下の点に注意が必要です。
プロバイオティクス摂取開始時に、一時的に腹部膨満感、ガスの増加、軽度の腹鳴が生じる可能性があります。通常1~2週間程度で腸内細菌叢が適応し、軽減することが多いです。症状が強い場合は、摂取量を減らすか、一時中止を検討してください。
免疫抑制療法を受けている方や重篤な免疫不全がある方は、プロバイオティクスの使用前に医療専門家に相談してください。妊娠中や授乳中の安全性については、一般的なプロバイオティクスとして問題ないとされていますが、使用前に医療専門家に相談することが推奨されます。
抗生物質とプロバイオティクスを併用する場合は、服用時間を2~3時間ずらすことが推奨されます。乳製品由来の培地で培養された菌株の場合、微量の乳成分が残存する可能性があります。重度の乳アレルギーがある方は、製品の成分表示を確認するか、医療専門家に相談してください。
炎症性腸疾患(クローン病、潰瘍性大腸炎)や腸閉塞などの重篤な消化器疾患がある方は、使用前に医療専門家に相談してください。
