パソコンやスマートフォンの長時間使用で目の疲れが気になる人に注目される抗酸化ポリフェノールです。 アントシアニン(anthocyanins)は、青紫色や赤紫色の植物色素として自然界に広く存在するフラボノイドの一種で、強力な抗酸化作用を持ちます。特にビルベリー(野生種ブルーベリー)に高濃度で含まれ、VDT作業による眼精疲労の軽減、毛様体筋のピント調節機能の改善、ロドプシン再合成の促進を助ける可能性が臨床研究で報告されています。 第二次世界大戦中のイギリス空軍パイロットの逸話から研究が始まり、現代では視機能の維持を助ける成分として広く利用されています。
- 主な働き:眼精疲労軽減、毛様体筋機能改善、ロドプシン再合成促進、抗酸化作用
- 摂るタイミング:朝食または昼食時、VDT作業前、36~144mg/日(ビルベリーエキス160~480mg相当)
- 相性:ビタミンC、ビタミンE、ルテイン、ゼアキサンチン
- 注意:視力回復効果は未確認、抗凝固薬服用者は医師に相談
- 食品例:ビルベリー、ブルーベリー、黒豆、紫いも、カシス
アントシアニンとは
アントシアニン(anthocyanins)は、ポリフェノールの一種で、強力な抗酸化作用を持つフラボノイド化合物です。青紫色、赤紫色の植物色素として自然界に広く存在し、特にベリー類、紫色の野菜や果実に豊富に含まれています。
植物性食品の中でも、ビルベリー(Vaccinium myrtillus)は最も高濃度のアントシアニンを含むことで知られています。ビルベリーは北欧を中心とするヨーロッパの高地に自生する野生種のブルーベリーで、一般的な栽培種ブルーベリーと比較して約5倍のアントシアニンを含みます。ビルベリーには15種類以上のアントシアニンが含まれており、特に視覚に関与するロドプシン(rhodopsin、視紅)の再合成を助ける作用が報告されています。
第二次世界大戦中、イギリス空軍のパイロットがビルベリージャムを食べると夜間視力が向上するという逸話から、アントシアニンと視機能の関係が注目され、その後の科学的研究につながりました。現代では、VDT(Visual Display Terminal)作業による眼精疲労や、加齢に伴う視機能の維持を助ける成分として研究が進められています。
からだでの働きと科学的知見
アントシアニンの最も広く知られた効果は、VDT作業(パソコンやスマートフォンなどの画面を見る作業)による眼精疲労の軽減を助ける可能性です。ビルベリーエキス(高濃度アントシアニン含有)の臨床研究では、目の痛み・かすみの軽減、慢性的な眼精疲労の軽減、主観的な疲労感の軽減が報告されています。研究では、アントシアニン換算で約36mg/日(ビルベリーエキス160mg/日相当)を4週間摂取することで一時的な眼精疲労症状が軽減し、約108mg/日(ビルベリーエキス480mg/日相当)を12週間摂取することで慢性的・急性的な両方の症状が軽減する可能性が示されています。PMC
2020年の臨床研究では、標準化されたビルベリーエキス(アントシアニン約57mg/日含有、240mg/日)を12週間摂取した際、毛様体筋(ciliary muscle)の収縮機能が客観的に改善されることが示されました。PubMed毛様体筋は、眼のピント調節(調節機能)を担う筋肉で、この筋肉が水晶体の厚さを変えることで遠近のピント合わせを行います。VDT作業など近距離を長時間見続けることで毛様体筋が緊張し続け、調節機能の低下や眼精疲労につながります。アントシアニンの摂取により、VDT作業後の毛様体筋の機能回復が促進される可能性が示されており、これは眼精疲労軽減のメカニズムの一つと考えられています。
アントシアニンは、視覚に関与する光受容タンパク質「ロドプシン(rhodopsin、視紅)」の再合成を促進する作用が報告されています。PMCロドプシンは、網膜の視細胞(特に桿体細胞)に存在するタンパク質で、光を感知することで視覚情報を脳に伝える役割があります。ロドプシンは光にさらされると分解され、暗所で再合成されますが、この再合成プロセスをアントシアニンが助けることで、暗順応(暗い場所での視力の回復)や視覚機能の維持に関与すると考えられています。
2017年の臨床研究では、標準化されたビルベリーエキス(Mirtoselect®、高濃度アントシアニン含有)がドライアイ(乾燥眼)患者の涙液分泌を改善することが示されました。PMCドライアイは、涙液の量や質の異常により目の表面が乾燥し、不快感や視機能の低下をもたらす疾患です。アントシアニンを含むビルベリーエキスの摂取により、シルマー試験(Schirmer's test、涙液分泌量の測定)の値が有意に改善し、涙液分泌の増加が確認されました。この効果は、アントシアニンの抗酸化作用や血流改善作用により、涙腺の機能が改善された可能性が示唆されています。
アントシアニンは、強力な抗酸化作用を持ち、活性酸素による網膜細胞の酸化ストレスを軽減する可能性が報告されています。PMC動物実験では、アントシアニンを含むビルベリーエキスが網膜神経細胞を酸化ストレスによる損傷から保護し、糖尿病性網膜症や加齢黄斑変性に関連する異常な血管新生を抑制することが示されています。ただし、ヒトでの視力回復効果については、現時点では十分なエビデンスがありません。
アントシアニンサプリメント(ブラックカラント由来)の摂取により、VDT作業後の屈折値の低下が抑制され、主観的な眼精疲労症状の改善が認められたことが報告されています。PubMed調節機能は、遠くから近くへ、または近くから遠くへと視線を移した際に、素早くピントを合わせる能力です。加齢やVDT作業の増加により、この機能が低下すると、目の疲れや見えにくさにつながります。
摂り方とタイミング
アントシアニンのサプリメントでは、一般的に36~144mg/日程度が使用されています。ビルベリーエキス換算では160~480mg/日程度に相当します。臨床研究では、眼精疲労軽減(短期)ではアントシアニン約36mg/日(ビルベリーエキス160mg相当)を4週間、眼精疲労軽減(長期)では約108mg/日(ビルベリーエキス480mg相当)を12週間、毛様体筋機能改善では約57mg/日(ビルベリーエキス240mg相当)を12週間摂取することで効果が確認されています。
効果の発現には通常4~12週間程度の継続摂取が必要とされています。また、VDT作業が多い方は、作業前または作業中に摂取することで効果が期待できる可能性があります。
食品から摂るには
アントシアニンは、青紫色、赤紫色の植物性食品に広く含まれています。ビルベリーは最も高濃度で栽培種ブルーベリーの約5倍のアントシアニンを含みますが、栽培種ブルーベリーもアントシアニン含量はビルベリーの約1/5ながら入手しやすい食品です。黒豆は黒い種皮に、紫いもは紫色の色素として、ナスは皮の紫色としてアントシアニンを含みます。赤じその赤紫色、黒米の黒い色素もアントシアニンです。カシス(ブラックカラント)やアサイーの濃い紫色の果実、クランベリーの赤色、いちごの赤色(アントシアニンとエラグ酸)、さくらんぼの赤色にもアントシアニンが含まれています。
眼の健康維持を目的とする場合、臨床研究で効果が確認されているビルベリーエキスのサプリメント(標準化されたアントシアニン含有)を利用することが推奨されます。標準化製品では、アントシアニン含量が明記されているため、適切な量を摂取しやすくなります。
栄養素どうしの関係と注意点
アントシアニンは一般的に安全性の高い成分とされていますが、いくつかの点に注意が必要です。アントシアニンは軽度の抗血小板作用を持つ可能性があるため、ワルファリンなどの抗凝固薬を服用している方は、使用前に医療専門家に相談してください。出血傾向がある方や手術予定がある方も、使用前に医療専門家に相談が必要です。手術の1~2週間前からは摂取を中止することが推奨される場合があります。
アントシアニンを含む食品(ビルベリーなど)は血糖値に影響を与える可能性が理論的に考えられるため、糖尿病治療薬を服用している方は、医療専門家に相談の上で使用してください。妊娠中や授乳中の安全性については、通常の食事からの摂取は問題ないとされていますが、高用量のサプリメント使用については十分なデータがありません。使用前に医療専門家に相談することが推奨されます。
ベリー類にアレルギーがある方は、アントシアニンを含むサプリメントでアレルギー反応が生じる可能性があります。使用前に成分を確認してください。高用量摂取により、まれに消化器症状(吐き気、腹痛など)が報告されています。推奨量を守り、症状が現れた場合は摂取を中止してください。
重要な点として、アントシアニンは視力そのものを回復させる効果は現時点で確認されていません。アントシアニンは眼精疲労の軽減や視機能の維持を助ける成分であり、近視・遠視・乱視などの屈折異常や、既に進行した眼疾患を治療するものではありません。視力に関する問題がある場合は、必ず眼科専門医の診察を受けることが重要です。
